発売日 1999年6月25日
メーカー D.O. 
かつてエロゲには泣きゲーと呼ばれるジャンルが存在し、エロゲの傍らにはティッシュ箱が欠かせない時代がありました(涙を拭うためにね!!)。そのジャンルを確立したのはKeyによるKanonかもしれませんが、その同年同月に発売された加奈~いもうと~の存在も忘れてはなりません。今を時めく田中ロミオさんのデビュー作です。

設定としては、これ以上はないほどに直球。病弱な妹ですよ? もうすぐ死ぬんですよ? こんなにも手の内が見え見えの泣きゲーが他にあるでしょうか。もはや今から右手のパンチでお前を殴ると予告されているに等しい。そんな来るとわかっているパンチを食らうバカが……ぐはぁっっ!!

この作品が非凡たる所以は、プレイヤーを感動させるための最初のハードル、“如何に加奈に感情移入させるか”という命題を開始僅か1分であっさりクリアしているところ。

その驚きの方法はと申しますと、“主人公が加奈をイジメる”んです。幼少期のあどけない加奈がお外で美味しそうにパック牛乳を飲んでいると、突然主人公がそれをはたき落として「拾えよ」と命令する。理不尽な兄の仕打ちにも大人しく従う加奈でしたが、更に主人公は落ちた牛乳を蹴っ飛ばして加奈に拾わせようとしない。走って拾いに行けば、先回りされてまた蹴っ飛ばされる。何も悪いことをしていないのに、容赦なく続くイジメ…。怖くて刃向かえず、されど拾うこともできず、加奈はその場に立ち尽くし、遂には泣き出しながら吐瀉してしまう。……この残酷なイジメを見せられて、心情的に加奈へ肩入れしない人がいますか!!? 

おかげさまで、スタート地点からいきなり加奈への庇護欲がMAX。可哀想な加奈を俺が守ってあげたい!! ……という風に、まんまと号泣フラグが屹立してしまったんですねぇ。

同時に主人公を絞め殺してやりたい衝動にも駆られましたが、善悪の分別が付いていない子供なんてこんなもん。大人になった主人公はこの日の出来事を深く反省していますし、今では誰よりも妹を愛して妹のために総てを擲つ立派なお兄ちゃんになりました。不憫な加奈に泣けるだけじゃなく、兄の必死の献身もまた泣けるんですよ。

私にとって最大の感動ポイントは、やっぱり遺書として加奈がペンダントに残した肉声メッセージ。特に4つめのメッセージで私は崩壊しました。加奈は弱音を吐かず、死を諦観して受け入れようとさえしていた強い娘だっただけに、彼女の本音の部分が露わになったメッセージには滂沱の涙が止まらない

ストーリー自体は非常に短いものだったのですが、その短ささえも加奈のすごさだと言えるかもしれません。だって、普通泣きゲーというのはゆっくり助走を付けて、じっくり感情移入させた上で、後半ジェットコースターのような怒濤の悲劇で泣かせにかかるものです。その点、加奈は限られた時間の少ない手数で的確に泣かせてくる。まるでお前を倒すには3Rで充分だと予告KO宣言されているような屈辱感。くそっ、舐めやがって!! ……と思っても、結局予告通りに瞬殺されちゃうんですが。


昨今、泣きゲーというジャンルが絶滅に瀕している理由は何なのか? それは、ネットによって批判に晒されやすい時代では「批判されにくいもの」が受ける傾向にあり、泣きゲーという100か0かの作品は難しい世の中だからなのかもしれません。

泣ける要素のあるゲームは作れても、泣きゲーは作れない。意地悪くいえば、「こんなもん泣けない。くだらない」と批難されても、「べ、別に泣かせようと思って作ったゲームじゃねぇし!」と言い訳できるための予防線が張ってある作品ばかりなんですよね。

もし勇気ある作り手がいるのなら、泣けるか泣けないかで評価が真っ二つに分かれるような、純然たる泣きゲーを再び世に送り出してもらいたいものです。泣きゲーの世界はルール無用のバーリトゥード。どんなにあざとい方法でも浅ましい方法でもいい。とにかく、プレイヤーから1滴でも涙を流させたら勝ち! だけど、泣けなかったらゴミ!! 挑戦者求む。

鹿島夕美。加奈はお気に入りとかを超越したヒロインなので。夕美は邪険にされても常に隆道(主人公)のことを想い、加奈を失って抜け殻となってしまったあとも献身的に支えてくれた素晴らしい彼女。
2012年7月17日