発売日 2011年8月26日
メーカー Abel Software 

ゾンビ取りがゾンビになる
2010年のクソゲーオブザイヤー3本(恋刀乱麻、デュアル・エム、まるめる)がノミネートされる不名誉な快挙を成し遂げ、今やすっかりお笑いメーカーに落ちぶれてしまったAbel Software。

3タイトルのあまりにひどい内容と秀逸な選評に私も思わず吹き出してしまったのですが、心の底からは笑えなかったというか、正直胸中は複雑だったんですよね…。私にとって菅野ひろゆきさんはやっぱり特別な存在。最後にプレイしたのが十次元立方体サイファーで、Abelさんの惨状をまだ実際に目の当たりにしてないこともあり、気持ちとしては常に「擁護側」だったんです。

だからこそ、新作「ゾンビの同級生はプリンセス」をプレイして見極めたかった。「自分がAbelの無実を証明してやる!」というとおこがましい話ですが、なんとかAbel作品の良さをみんなにアピールしたいという私の健気なファン心理に衝き動かされたのは事実です。

幸い、設定だけ見ればそんなに悪くない。タイトルと雰囲気は明らかに一昔前のラノベセンスですけど、高飛車な魔界の王女と不死の身体を持つ高校生による探偵コンビは、規定概念を打ち破ったミステリーへの期待感があって、純粋に面白そう。七瀬葵さんのおかげでCGも冴えていますし、これでシナリオが菅野さんなら、どう転んでも駄作になる想像は付かない。近年、悪評まみれのAbelさんでも、今回はさすがに大丈夫でしょ~。


そんな考えで火中の栗を拾ったら、手に大火傷を負うという当たり前すぎる結果が待っていました。いやはや、これはひどかった…。仮に私が菅野さんの親戚であったとしてもこの作品は擁護できない。これは世に出しちゃダメなやつですよ…。

何がひどいって、まず“探偵ハイパーリンク・システム”ってのがひどすぎる。この作品には、はてなダイアリーのキーワードリンクのように、アンダーラインの引かれた特定の単語にクリックすることでTIPSが表示されたり、単語が指し示す人物の視点にストーリーが派生する仕組みがあるのです。それ自体は別に悪くない、むしろ発想としては良かったとも言えるのですが、ユーザビリティを1ミリも考えていない最悪の不親切さのせいで総てが台無し。

そもそも普通にテキストを読み進めていて、途中にいきなりキーワードが表れても、「おっ!」と気付いたときには既に次の文章に読み進めているものなんですよね。それでもバックログで戻って、先程表示されたキーワードをクリックできれば何も問題はないのですが、何故かこのゲームではそれが許されない。少しでも文章を先に読み進めてしまうと、ふて腐れてもうリンクさせてくれないという、究極に心の狭いシステムなんですよ!

なので、こっちは機嫌を損ねないよう(キーワードを見逃さぬよう)、絶えず慎重にクリックし続けなくてはなりません。まるで教習車で小学校付近を運転するときのような安全運転。いつ子供(リンク)が急に飛び出してくるかわからないですからね。通常の速度で運転していたら、急ブレーキをしても間に合いません。取り返し(バックログ)も付きません。

首尾良くキーワードリンクのあるテキストで文章をストップできても、手が滑ってキーワードからカーソルがズレてしまい、間違って次の文章に送ってしまったときの絶望感と来たら…。ドジと言えば私のドジなんですが、結構これやらかしちゃうんで、その都度ストレスが半端ないんですよー。


意味不明な独自仕様はまだまだあって、このゲーム、話の途中で急に画面が暗転し、「このシナリオをもう一度読む」「このシナリオを終了する」という選択肢が度々表れるんです。

最初、私は訳がわからないまま、とりあえず「もう一度」の方を選択してみたんですが、本当に同じ話が最初からもう一度始まりやがりました。今度は「終了する」の方を選択してみたら、本当にゲームが終了してタイトル画面に戻りやがりました

どういうことかって? それはこっちが聞きたい。なんの前触れもなくゲームが終了して、泣きそうになっているのはこっちなんですから!!

もう一度最初からゲームのやり直しを余儀なくされた私は、今度は正しく分岐を辿るため、途中に出てくるキーワードを見逃さないよう細心の注意を払う。

しかし、つい先程読んだばかりの既読文章を、もう一度読み直さなくてはならないのは計り知れない苦行ですよ。備え付けの既読スキップを使えば、分岐のあるキーワードリンクも一緒にすっ飛ばしてしまうので、まったく意味がない。つまり、この作品は“既読文章であろうと”目を皿にしながらテキストを読み進めなくてはならないんです! Holy shit!

第1話は、このキーワードリンクが複雑に絡み合って枝分かれするため、メチャクチャしんどかった…。話の途中でころころ視点が切り替わりますし、ストーリーを理解するのもしんどい。Aの話の途中でBの話が始まり、その途中で今度はCの話が始まり、Aの話は置いてけぼりのまま。せめて最初ぐらいは、メインの月奈&存在刃中心に話を進めてくれませんかね…? まだ主要キャラクターもキチンと把握できていない状態なのに、執事の視点とか、月奈を快く思わない女子……のセフレの男の視点とか、そんなのいらねぇっす!!

第2話に入ると、ぐちゃぐちゃに入り組んだストーリーはわかりにくいと気付いたのか、それとも単にフラグ処理が面倒臭くなったのか、突然分岐をやめて完全な一本道になります(気まぐれだなぁ)。一本道といっても、文章の最後に出てくるキーワードリンクを辿らないと、例の暗転でもう一回最初から読み直しさせられる罠は健在(そんなのがなんと50弱もある)。最後の最後で読み直しさせられるイライラ感は凄まじいですよ~。

しかし、真の恐怖が待っていたのは第3話でした。冒頭に数行のテキストが流れた時点で、突然「COMING SOON!」の文字!! ……ん!? んん??

これ、「続きはWEBで!」って意味らしいです。なんと、たった2話終わっただけであっという間にゲームが終了! 今後はいつ公開されるかわからない続きをWEBで待つしかないとのことです。お値段が7000円もしたとびっきり豪華な有料体験版。真面目な話、こんな商売が許されていいんでしょうか。このゲーム、いろんなダメなところがありましたけど、一番ダメなのは法的にダメなところだと思います。


菅野さんは読ませる文章を書ける人でありながら、常にゲーム性を忘れないポリシーがとても立派で、私はそこに共感を憶えていましたが、こんなバカげたシステムでシナリオ読まされるぐらいなら、キャンパスノートにシナリオ書いて売り出してくれた方が100倍マシ。まともに文章に集中できないシステムなので、もはやシナリオの善し悪しを論じるレベルにないんですよ。このシステムに当てはめたら、FateだろうがSteins;Gateだろうが、全部駄作になります

そして、最後の凶悪なアドオン商法。全4話で3話収録+追加1ぐらいならまだギリギリ理解できなくもありませんが、2話で終了って完全に頭いかれている。こんな未完成品を堂々と売りつけるなんて、企業コンプライアンスは一体どうなっているんでしょうか。擁護するつもりだったのが、すっかりアンチの一員になってしまった私。

長年に渡って抱き続けていた菅野ひろゆきさんへの敬愛の念は、この作品を区切りに脆くも崩れ去りました。……と言いたいところですが、菅野さんはこの作品の製作中に生命に関わるような大病を患って、ずっと入院されていたみたい。現在は無事に復帰されたものの、「ゾンビ企画は、原作菅野・脚本某と言った方がいい」とのこと。

ということは、この駄作は菅野さんの責任ではなかったってことですね! 良かった…! それなら私の菅野さんへの愛はまだ不変! でも、菅野さんの作品買うのは当分控えようかな!

一応、咲魔月奈(さくまるうな)は好きなヒロイン。性格はまんま涼宮ハルヒでしたけどね。そういう意味でも、ラノベ臭いエロゲでした。

あ、そうそう。言い忘れていましたが、このゲーム音声ないよ
2011年9月11日