発売日 2003年5月30日
メーカー イージーオー 
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兄心あれば妹心
昨年隆盛を迎えた妹ブームは今年になっても衰え知らず。妹はすっかりエロゲの定番となり、これまで数多の作品に義理の妹が登場されてきました。彼女らに共通するのは、無垢な心でどんな時でも兄を一途に敬愛する健気さ。「兄への敬慕」がデフォルトで兼ね備えられている妹は、常に愛情の送り手側であり、兄(プレーヤー)にとってそれは「安心」を感じさせてくれる貴重な存在だったといって宜しいでしょう。

しかし、「うちの妹のばあい」における妹優香はそんな都合の良い妹たちとは、まったくの逆方向。兄の呼び名はぶっきらぼうに「アニキ」で、彼女はそんなアニキを慕うどころか、軽蔑している。無論、彼女にも真意では既存のエロゲ妹と変わらない「お兄ちゃん大好き」という気持ちはあるのですが、反抗期にも似たその態度で、気持ちは表面に出てきません。素直になれない、擦れ違い、義理という現実、様々の事情が交錯する兄と妹の間の溝は広く深い。

「妹は兄のもの」という大原則が打ち破られているのが、今までの妹ゲーとの最も大きな差異でしょうね。これはストーリーに密接に関係してくるので、多く語るのは慎みますが、これによって「安心」とはまったく正反対の「心配」という性質に変わってしまっています。この作品は、まさに妹への心配、心痛がテーマとなっている作品だったのですよ。

妹が例えどんなに兄を嫌おうとも、兄としては妹が可愛くて仕方がないですし、過保護といわれても妹のことが心配で心配で心配でたまらないもの。だから、優香が夜遅くなってもなかなか帰ってこなかったりすると、「今日はホントに帰ってこないつもりかよ…」と、不安ではちきれそうになり、そのまま優香が無断外泊をすれば、「まさか男の家に転がり込んでいたんじゃないだろうな…」と、もう気が気じゃなくなってくる

この兄妹の両親はすでに他界しており、現在兄妹2人暮らし。したがって、主人公は兄だけでなく、父としての役割も兼ね備えているので、愛娘を待ち続ける保護者の葛藤も大いにあったんですね。

一方、兄としての葛藤は、自分の可愛い妹が他の男と付き合いだした時のジェラシー。自分の妹が、他の男と交際するという、エロゲのセオリーを破った行動は、激しく兄心を動揺させます。

妹が自分の親友と付き合い始めて、段々その男の色に染まっていき、イチャイチャとじゃれあい始める妹を目の当たりにするのは、本気で辛い…。兄としての胸中は悲しみと怒りで張り裂けんばかり。

しかし、「妹の幸せを願う」という建前がある以上、妹が男と付き合い始めるのを咎める資格はありませんし、妹もその彼氏も別に悪いことをしているわけじゃなく、むしろ健全な交際。こっちは手前勝手な独占欲をムリヤリ抑え込み耐え忍ばなくてはならない。この作品は、お兄ちゃんシミュレーターと銘打っていますが、その名前は伊達じゃなく、本当に妹に対する兄の葛藤が味わえました。もし、現実に妹がいなくて、「お兄ちゃんになりたい」と憧れを持っている人がいらっしゃれば、この作品をやれば存分にその兄の実感が味わえますよ。それはそれは、身体の具合が悪くなるほどに。


ここまでご覧いただいて薄々気づかれているでしょうが、今回私はこのエロゲにかなり感情移入してしまっています。悔しいですが、これほどまでに感情移入させられたエロゲは今までにありません。

物語へ没頭できたのは、それだけ物語を楽しめたと言えるのかもしれませんが、この際ハッキリ弁明しておくと、私はこの物語を楽しめたわけじゃないんです。ええ、まったく楽しめませんでした。だって、プレイ中、気持ちはずっと暗澹としていて、物語の中の作り事に私は本気で苛立ち、本気で悲しみ、本気で具合が悪くなってしまいましたから…。ホントに、どれだけ胃がキリキリと痛んだことか。

この感傷は「鬱ゲー」と呼ばれる性質の作品に近いものですが、それは正確な表現ではなく、どちらかというと「心労ゲー」。語呂はかなり悪いですけど、この表現が一番近いのではないかと。これほど精力(元気という意味ですよ)を消耗するエロゲは、探してもなかなかございませんよ。


まぁ、それでもラストでちゃんと妹と兄が和解して、また昔のように妹が「お兄ちゃん大好き!」と甘えるようになってくれれば、今までの心労も苦悩も総て報われるんですがね。終わり良ければ総て良し。紆余曲折あっても、ハッピーエンドで終わってくれれば、「ああ、良い話だったな」の大団円でなんとか終われるんです。その後のエッチシーンも感動を憶えるものでしたし…。

ただ恐ろしいのは、うちの妹のばあいは決してそんな幸せな未来に繋がるとは限らないこと。今までの不安や心配、悪い予感が全部的中し、最悪、自分が最も憎む男に最愛の妹を寝取られてしまうような、残酷な終幕を迎えるかもしれないのです。

「かもしれない」というのは、私自身それは確認していないためです。私はこのレビューを書いている時点で、各キャラクター個別に用意されているBAD ENDを見ておらず、そして今後もそのBAD ENDを見るつもりが一切ない。

何故なら、「終わり良ければ総て良し」でどうにか救われた作品だというのに、これが終わりまで救われなかったのならば、もはや発狂してしまうこと間違いないからなのです。もしも、危惧どおりの残酷なBAD ENDであれば、確実にこの作品を許すことが出来なくなると断言できますので…。だから敢えて、暗部には目を伏せておく。私は、愛すべき妹の不幸を進んで見る必要はないと判断しました。

純子さんのストーリーではじんわりきてしまった。ただの半ズボン好きショタコン童貞キラーだと侮っていたら、知らず知らずのうちになんかいい話になっていくんですもん。ズルイ。

でも、この作品は泣きゲー的な要素は薄いと思います。笑い飛ばせない重い話で、ペーソス感は溢れまくってる物語ですけど、お涙頂戴という性質じゃない。第3者の立場で劇中の人物に同情して涙を流す泣きゲーとは違って、「うちの妹のばあい」は同じ悲しさでも身に迫る悲しさ。もし涙が流れるなら悔し涙かもしれませんね。

このゲームをやってるほとんどの時間は妹の優香を心配していました。優香以外にも友達の奈々子ちゃん・幼馴染のお姉さん純子先生が攻略対象ヒロインでしたが、正直妹の優香の方に手一杯で、彼女らへ気を回せません

奈々子ちゃんと談笑している最中でも、頭の中では妹の優香のことが気になっていますし、乳繰り合っている最中でも、頭の中では妹の優香が気になっています。どんな時でも、妹のことが頭にあるので、終始こっちは上の空。妹をほったらかしで、他の女に現を抜かしている余裕がなかったんですよ。
2003年6月1日