うみねこのなく頃に Episode1
メーカー〔07th Expansion〕 発売日2007年8月17日


紅茶とアイスクリーム
※作品の性質上、一部ネタバレを含んだレビューとなっております。ご注意ください。

孤島に佇む古びた洋館に右代宮家の親族が一堂に会し、余命幾ばくもない当主金蔵の遺産相続を巡って穏やかならぬ話し合い。空には暗雲が立ちこめ、吹き荒ぶ嵐。外界との一切の連絡が途絶えてしまったクローズドサークルに、今宵不吉な出来事が……とまぁ、舞台設定はミステリの王道1号線というべき有り触れたもの。どんな愚鈍な人間であろうと、その夜に殺人事件が起きると察するでしょう。

しかし、古典ミステリを装ったうみねこのなく頃に(以下うみねこ)でも、その内容は斬新且つ、意欲的。何せ、プレイヤーに問われているのは魔女が存在するか否か。犯人(Who)、動機(Why)、犯行(What)、現場(Where)、アリバイ(When)、トリック(How)、そんなミステリの5W1H以前に、「犯行は人間に可能か、不可能か?」という根源的な謎を投げかけているのですから。

皆さんは、どんな不思議な出来事が起こっても、全て“人間とトリック”で説明し、一切の神秘を否定する、最悪な人間至上主義者共です。

私が期待するのは、正解に至る推理が現れることじゃない。一体何人が最後まで、魔女の存在を否定して、“犯人人間説”を維持できるのか。つまりこれは、魔女と人間の戦いの物語なのです。


仰るとおり、私は一切の神秘を否定する最悪な人間至上主義者。超常現象などまったく信じていないアンチオカルト人間です。だからこそ、「犯行は人間に可能か、不可能か?」を問うてくる今作は大変興味深いテーマであり、その挑発にまんまと乗っかかりたくなります。ベアトリーチェという魔女の存在の否定は悪魔の証明ですが、何としても「魔女なんていない」ってことを示してやりたい! 如何なる不条理を叩きつけられようとも、最後まで魔女に屈服することなく、愚かな人間至上主義を貫き通してやりたい!

でも、そんな風に意気込んで挑戦者気分でいたのも最初の内だけ。ぐいぐいと物語に引き込んでくるうみねこは純粋に読み物として面白く、いつしか私は普通に物語に没頭するだけの一読者になってしまいまして…。


それだけに最初の事件はショッキングでした。顔面を破壊するというあまりに悲惨な猟奇的殺人。それも一気に6人が同時に殺されるというのは、さすがに度肝を抜かれましたよっ。蔵臼、留弗夫、楼座、霧江といった主要人物を序盤でいきなり失ってしまうとは!

「親父ぃいいぃ!! てめぇは絶対地獄行きだとは思ってたぜッ?! でもよ、ここまでじゃねぇだろ? ここまで惨ぇ目に遭わされるほどの悪党じゃなかっただろうがよッ!!」 「…顔がねぇ…、顔がねぇよ…。」

戦人(ばとら)の慟哭には、思わずもらい涙。ミステリにおける殺人は予定調和であり、18人の誰かが犠牲者になることは、プレイヤーの誰もが承認済みである出来事なのに、この胸に沸き上がってくる途方もない悲しみは一体…。ミステリの登場人物の死を悼むなんて、初めての経験です。

それだけ私が戦人に感情移入しまくっている証拠でしょうか。戦人は私の気持ちを1つ1つ忖度(そんたく)してくれる主人公でして、私が「こういうことでは?」と感じた疑問を、そのまま劇中で代弁してくれる存在だったんですよ。私の思いつきは彼の思いつきであり、彼の疑問は私の疑問でもある。完全に「私=戦人」。シンクロ率は400%を超えて、L.C.Lに溶けてしまいそうなぐらいです。

でも、それは「偶然」ではなく、明らかに作為的なもの。つまり、竜騎士07さんは、頑なに魔女の存在を認めない現実主義者の行動パターンを、そのまま戦人に投影しているんですね。その人間たちが考えそうな、思いつきそうなことを先回りして提示しているだけに過ぎない。私の思考が完全に読まれているからこそ、戦人は私の思考のままに行動していたということ。平たく言えば、まんまと作者の手の上で踊らされていたってわけですね~。

傀儡である私の浅知恵では、うみねこの謎を暴くのには役不足(誤用)。「死体の顔面が損壊していたのは身元を偽るもの! 死を隠れ蓑としている人間が裏で暗躍している!」という偽装死の可能性も一時考えていましたが、終了後に出題された謎を振り返るTea Partyにおいて、同様のことがあっさり示唆されていてガックリ…。私の推理など、1から10まで読まれていそうです。


真里亞の手紙・6人の殺し方・シャッター・レシートの封印・チェーンの密室・嘉音のボイラー室・源次たちの客間・夏妃の自殺・碑文の謎・黄金の在処

出題された謎をざっと並べてみても、まだ情報が少ないため推理の取っ掛かりがなく、どれも憶測の域を出ないんですよねぇ。「チェーンの密室」は、ある意味、“最もわかりやすい難問”なので、これは何とか解けそうな気もするんですけれど…。

ちなみに、現時点での私の考えは、犯人はチェーンを切断して堂々とドアから侵入し、秀吉・絵羽夫妻をアイスピックで殺害。犯人はそのまま侵入したドアから立ち去り、ドアの隙間からチェーンを“修復”した……というものです。その後、チェーンは“再び”切断することになるのだから、痕跡を残さないような完璧な修復でなくてもいい。つまり、異変に気付き、番線カッターでドアチェーンを切断した嘉音こそが、怪しいと思っているのですが……どうでしょう?


最後に「犯行は人間に可能か、不可能か?」という問いに関しては、やっぱり「可能」だと答えたいですね。要は、全員がグルなら可能ですから。どんな強固な密室であろうとも、当人が自殺をすれば殺人は成立する。可能性だけを考えるなら、人間にも可能な犯行だと思いますよ。

テキストは戦人の一人視点で書かれていないので、さすがに全員グルというオチはないでしょうが、複数人が関与しているのはまず間違いないところだと。私は単独犯という考えは既に放棄しています。


なんにせよ、ここまで好奇心を煽る上質な謎を出題してくれたんですから、それに見合うだけの結末も期待したいもの。これで薬による幻覚とか、SF的なオーバーテクノロジーとか、そういうアンフェアでくだらない手段なら興醒めですよ。きちんと、理路整然と、リアリティを逸脱しない「答え」を見せてくれれば、その時は潔く竜騎士07さんに屈服致しましょう! 魔女に屈服する気は更々ないですが、竜騎士07さんには是非とも屈服したい。心の底から「参りました」と跪ける日が来ることを、私自身強く望んでいます。

予てより懸案だったのは絵。ひぐらしもこの癖のある独特の絵が嫌で、ずっと敬遠してきました。うみねこでも、その点は同様でしたが、いざ始めてみるとそんなに気になるものじゃなくなりましたね。やっぱり、テキストが良いと、見た目なんか気にならなくなる

ただ、夏妃がライフルで武装する際、銃を携える丸っこい手がコミカルすぎて、つい吹き出してしまう。せっかくの緊迫感が台無し~。

登場人物の平均年齢は高く、ほとんどがオジサンオバサンなので、誰が萌えだとか論じにくい作品です。

かろうじて萌えキャラ要員と呼べるのは朱志香、真里亞、紗音の3人。でも、紗音は譲治と人知れず付き合っていますし、朱志香は自覚こそ無いものの嘉音に想いを寄せている。エロゲのやり過ぎで、ヒロインは主人公に気があるものだと当然のように思い込んでいただけに、そうでなかったことに些か衝撃を受けました。

そんな萌えキャラ不在の中、最後に突如姿を見せたベアトリーチェに私は萌え萌え! 肖像画では物静かなイメージを連想していたのに、こんな愛らしく愉快な人だったとは! 笑ったときの八重歯が実にチャーミング☆ さっき魔女に屈服しないと宣言したばかりですけど、ベアトリーチェになら屈服してもいいや! 魔女信じるよ、僕! だから黄金郷へ一緒に連れてって~!
2007年9月1日