発売日 2010年7月29日
メーカー UHMA project 

無償の感動という借りを作ってしまった
Twitterのタイムラインを眺めていて、初めて存在を知りました。ユーマを抱きしめて、一体どんな作品なんだろうと軽い気持ちで調べてみたら、一見して何やらものすごくクォリティの高そうだったので驚愕。商業作品と説明されても、何ら疑問を持たないレベルです。しかも、これが無料…? そんなふざけた話がありますか。どうせ基本料金無料とかじゃないの? 途中で法外な課金アイテム買わされるんでしょ、きっと。

疑心暗鬼になりつつ、ダウンロードして始めてみると、ますます疑心暗鬼が悪化。想像以上に完成度高いですよ、これ! 特にビジュアル面のクォリティは目覚ましく、背景CGはよくある実写取り込みではなく、きちんと1枚1枚手描きによる美麗なCGだったのが恐れ入る。尚且つ、枚数もすご~く多いんです。ほんの僅かなシーンのためにも、惜しみなく専用の背景CGを割いていますので。

システム面でも文句のない充実度で、ボイスは女性キャラのみならず男性キャラにまで付いている豪華さ。更には、アニメーションを交えたスタイリッシュな映像美と美しい主題歌で彩られたセンス抜群のOPムービー! いや~、これは本気すぎる! 同人はおろか、商業クラスでもこれに比肩するものは少ないんじゃないかなぁ。こんなのがフリーソフトだなんて、逆に不安で怖くなってくるんですけど…。

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あとからこんな怖~い請求が来るんじゃないかと。今のところ、まだそんな督促状は届いていませんけどね。


さて、いくら質が高いといっても、やはり気になるのはシナリオの出来。ユーマを抱きしめては、UHMA(遺伝性不定筋変異)という奇病に冒され、明日の命すらも定かではない少女、永宮玲奈を中心にしたストーリー。周りに壁を作って誰とも馴れ合おうとしない彼女と、貴由らクラスメイトとのふれあいがメインで描かれています。

しかし、物語は玲奈自身の視点で語られるのではありません。他に主人公が誰かいるわけでもなく、玲奈を取り巻く人間、それぞれの視点から玲奈について語られているのです。これは作品において、非常に有意な手法だったと言えましょう。玲奈の謎めいた部分を伏せつつ、多角的な視点から玲奈の人間性を描いているのが上手い。他を寄せ付けない彼女が、委員長の藤崎相手には意外にもフランクな接し方をするなど、意外な一面を知ることができたり。

ゆえに、玲奈が主役であっても、周りの人間の方が重要なキーとなっている。当初は、玲奈の死生観をテーマにしたものを想像していて、暗くて重くて報われない話を覚悟していたものですが、実際はそれよりもハートウォーミングな面が目立つ、いわゆる「いい話」でした。貴由、亜弥、藤崎、本当にみんないい人たちばかり。伏線や意外性で勝負するタイプではなく、展開としては素直で読みやすいものでしたが、テーマがぶれることなくシンプルに物語を完遂していたのは好印象ですよ。

ボロ泣きして涙が止まらないってよりは、気持ちのいい感動を届けてくれてありがとうって感じ。エピローグでは、さすがに私もグッとくる場面がありましたけど、ここもやっぱり演出のセンス。ネタバレになるので詳細は伏せておきますが、あの感動はただテキストを垂れ流すだけじゃダメ。映画的な演出があってこそですね。

プレイ時間が3時間前後という点からも、良質なシネマを1本鑑賞する感覚でプレイされるのがよろしいかと。本来なら1800円かかるものが、貴方は幸運にもチケットを既に手に入れているのです。是非、ご観覧あれ。

その気になれば、もっと感動巨編っぽく仕上げられた作品。玲奈の孤立感や疎外感をアピールして、もっと他の登場人物を掘り下げ、ラストまでの助走距離を伸ばせば、あざとく感動を助長できたはず。そこを敢えてさっぱりとまとめちゃっているのは欲がないなぁと。まぁ、こんなゲームを無料で配布している時点で、作者は無欲過ぎるんですが。

一番のお気に入りは、「いいんちょ」こと藤崎。さりげない優しさと、最後の見せ場でメロメロ。やたらとセクシーなウィスパーボイスにもドキドキさせられましたしね。あ、ちなみに彼は男です。藤崎勇也。
2010年9月18日