発売日 2010年8月26日
メーカー Nitro+ 
アンチャーテッドやってる場合じゃなかった
昨年10月のXBOX360版発売直後から、批判らしい批判を聞いたことがないほど各所で絶賛の嵐。これだけ凄まじい評判を聞き及べば、プレイしてみたい欲求に駆られるのは自然の流れというもの……ですが、生憎、私は敬虔なるSONY教徒。異教の箱に触れることは戒律により厳しく禁じられておりますので、PC移植される日が来ることをひたすら願い、じっと顔を伏してをお待ちしておりました。


Steins;Gateは想定科学ADV。いわゆるタイムトラベルモノに属するストーリーであり、SFへの造詣、物理学に脳科学の知識まで要求される緻密で高度な内容でした。SFアレルギーで理系に疎く、賢さそのものが著しく足りていない私にとっては、致命的なほどに不向きな内容。ネットスラングを含め、聞き慣れない単語で埋め尽くされているテキストの意味を、1つ1つ咀嚼(そしゃく)しながらプレイするだけでも大変。クリアまでの時間は、恐らく常人よりも10時間ほど長くかかったでしょうね。

けれど、それはちっとも苦痛じゃない。理系に疎いからこそ、新鮮な驚きを持って知識を吸収でき、自分の中の知的好奇心を大いにくすぐってくれる。これがゲーム独自の造語や設定で煙に巻こうとする“スペース・ファンタジー”であれば即投げ出していたでしょうが、Steins;GateのSFは本当の意味での“サイエンス・フィクション”。時間を遡るという荒唐無稽を成し遂げるためには、どういった構造でどのような理論が必要なってくるのか、きちんとロジカルに説明してくれている。

勿論、現実にタイムマシンが存在しない以上、虚構も多分に混ざってはいるのですが、それをもっともらしく見せていることが肝要なんですね。ハッタリでもトンデモでも、騙してくれるだけの説得力さえあればいい。最初から嘘丸出しなファンタジー理論じゃ、騙されてあげる気分にもなれませんから。現実に即した世界観で、安易なファンタジーという逃げ道に走らない真摯な作品であったからこそ、こちらも真摯に理解へ向き合えたのです。

通常、タイムトラベルモノは、たまたま時間を遡行してしまったとか、アイテムを手に入れたとか、誰かがタイムマシンを完成させたとか、自分がその原理を理解しないままで扱われることがほとんどですが、Steins;Gateはその部分を暈かさず、タイムマシン完成までの道筋を辿ってくれたのも好印象。電話によって電子レンジを遠隔操作できるというくだらない発明を出発点に、予期せぬ偶然が重なって起きた不思議な現象の検証。そこから導かれる様々な仮説。実験による解明。まさに自らが探求心旺盛な研究者として、実際にタイムマシン開発に携わっている気分が味わえるのです。


マシン完成後は、急転直下で怒濤の展開。悲しく、切なく、そして熱く燃えたぎる最高のドラマが待っていました。主人公が初めてタイムリープを実行して過去へ遡るシーンは、全身が総毛立つほどに痺れますっっ! これだけ目が醒めるような刺激的な展開もありませんよ。これは比喩でもなんでもなく、私は丁度、夜0時を回って「そろそろお風呂入って寝なきゃな~」と思っていた頃に、運悪くこの山場に差し掛かってしまったため、それから朝5時過ぎまでぶっ通しでプレイを余儀なくされることに。なんという睡眠妨害…! でも、こんなの途中で中断するのは絶対無理!!

タイムリープって、神の視座から未来を思うがまま操れるに等しい力だと思いがちですが、実際はそうじゃないというのが深い。Steins;Gateの世界の成り立ちはコペンハーゲン解釈でも多世界解釈でもなく、常に決定された未来へ帰結される世界線収束範囲理論(アトラクタフィールド)という独自の解釈が用いられており、1人の人間が運命を変えようと行動を起こしたところで、世界線変動率(ダイバージェンス) は誤差の範囲に過ぎず、大局的な未来は捻じ曲げられないのです。

過去に戻って未来を変えるのは、簡単なようで難しいということ。そして、多大なる犠牲を払う覚悟が必要であるということ。誰かの未来を救うためには、誰かの未来を犠牲にする必要があり、そのギリギリの選択に思い悩む主人公の姿に、私は感情移入してしまう。他の人間にとってはほんの数日間の出来事であっても、主人公1人は、その何倍もの時間を体感しながらもがき苦しんでいるのですから、見ていて胸がぎゅーっと締め付けられますよ。途方もない回数のタイムリープを繰り返しながら、何もできない無力感に打ち拉がれる主人公。しかし、それでも挫けずに未来に抗い続けようとする主人公。

主人公のオカリンこと岡部倫太郎は、陰謀論と妄想癖に取り憑かれた厨二病という非常に癖のある設定で、私も最初はチョット悪感情を持っていたところがありましたが、彼の幼稚な言動は自覚的なもので、いわばピエロを演じているだけと理解してからは気にならなくなりました。未来を改変するため、タイムリープを繰り返して必死になっている姿は最高にカッコイイとさえ(宮野真守さんの声もイケメンすぎる)。

オカリンは途中で厨二病の仮面を脱ぎ捨てますが、その設定は後々になってもちゃんと活きていて、彼の誇大妄想が次第に真実味を帯びてくるところ、敢えて再びピエロを演じるところは、素晴らしい演出になっていたと思います。


ストーリーは紛れもなく超一級品。周囲から批判らしい批判が聞こえてこないのも頷ける会心の名作でした。今回は茶化すこともできず、ただただ感心するばかりのレビューです。ネットスラング多用がウザイとか、真エンディングを見るのが難しすぎとか、テキストを瞬間表示できないとか、既読判定がまともに働かないとか、全体的に動作が重いとか、バグで強制終了するとか、そんな数々の欠点も些細なものだと吹き飛ばしてしまえるだけのパワーがありますよ。こんな物語を作れる人って尊敬。

皆さんも、チョットでも興味があれば、これは絶対にプレイしておくべき! きっと批判らしい批判もできずに、大絶賛を繰り返す大衆と化すことでしょう。それが運命石の扉(シュタインズ・ゲート)の選択です。エル・プサイ・コンガリィ。

Steins;GateのCGは塗りが大理石のような質感で、どことなく退廃的な香りのあるデザイン。風変わりなCGではありますが、Steins;Gateにはマッチしていると言えるので、私はこの独特な感じは好きです。

独特というと、携帯電話という身近なツールを、身近に感じられる「フォーントリガーシステム」もお気に入り。メールや電話が密接にストーリーに絡んでくるのではなく、遊び感覚のメールの楽しさがゲーム上で再現されているのがいいですね。シリアスな話の最中に着信があって、チェックしてみるとTPOを読まないバカなメールだったり。

ゲーム中に選択肢がなく、メールの返し方で展開が変動するのも面白い試みでしたが、この辺はもう少しわかりやすくして欲しかった。キーワードを選んでメールを返信するのですが、どれが正解かは完全に運なので…。

トゥットゥルー♪ まゆしぃです。このゲームは、プレイヤー自身が椎名まゆりを好きになれなきゃ、後半のオカリンの行動に感情移入できないかも? ストーリーの根幹に関わる問題なので、まゆしぃの好き嫌いは大きくゲームの印象に左右されそうです。まぁ、まゆしぃを嫌う人はそんなにいないと思いますけどね。まゆしぃのことが大好きな私は、思いっきりオカリンに感情移入できました♪

いつも小難しい話が飛び交っているラボ内において、まゆしぃは一服の清涼剤。彼女のほんわかした物言いに癒されます。ホント、ラボメンには欠かせない人材ですよ。「あのね、まゆしぃはオカリンに、ガッカリなのです」といった「まゆしぃは、○○です」の言い回しがすごく好き。子供のようなあどけなさと同時に、主人公に言い聞かせるお姉さんらしさも感じさせるので。

100点満点を付けようかどうか最後まで悩み抜いたのですが、「ラストでもう一押しあれば…」ということで今回はこの点数。これまでの伏線を残さず回収した見事なラストだったとはいえ、最後は上手さよりも感情に訴えかけてくる力強さが欲しかったところ。結局、このゲームの最大の山場はChapter5だった気がするんですよ。そこからラストまで結構距離があるんですよね。その間に物語が弛緩したわけでは決してありませんが、やはり「ラストでもう一押しあれば…」。起承転結を10段階で評価すると、起7承8転10結9って感じです。

エンディング絡みで不満は実はもう1個ありまして、真エンディングのヒロインが紅莉栖だったのがちょっぴり納得行かない。自分の中で、紅莉栖とまゆしぃは同格のヒロインだと思っているため、どちらかを優遇しないで欲しかったなと。まゆしぃが前座扱いなのは悲しいのです。
2010年9月6日