さかしき人にみるこころ
メーカー〔light〕 発売日2008年5月30日


文字で口説いて気持ちで惚れて姿に見とれて身に溺れ
見ず知らずの女にいきなり「わたし、あなたが嫌いなの」と面罵されたらどんな気分ですか? 理由も述べず、一方的に敵意を剥き出しに拒絶してくるなんて、非常識にも程がありますよね。

言われた張本人である主人公の勾坂一重(こうさかかずしげ)は、当然気が気でありません。何故自分がという当惑と、無礼な彼女に対する苛立ち。その2つの感情が入り交じり、入り交じり、入り交じった末に生まれたものが……恋心。そう、なんと彼は初対面で悪態をついてきた女、真柄亜利美に一目惚れしてしまうんです!

「嫌いと言われて好きになるなんて、お前は変態かっ!」と厳しく問い質したいところですが……わ、わかる! その気持ち、すっっごくわかるよ!! 嫌われているからこそ追いかけたい、手に入れたい、好きだと言わせたいって衝動は絶対あるよね~! 倒錯した愛情ではありますが、道が険しければ逆に好ましいという因果な血なんです。

恋愛の対象にするなら、常識的に考えて絶対にどんちゃんのほうなんだけど… どうしておれ、こんなわざわざ難しいほうのルート、攻略してるんだろ……

だから、主人公のこんな呟きにもうんうんと頷ける。“どんちゃん”とはやや天然入っている可愛らしい女の娘で、亜利美とは正反対なヒロイン。普通ならこの娘を好きになるのが自然であり、好きこのんで亜利美なんかを選ぶ理由はありません。けれど……

どんちゃんの声のほうがかわいいのに。どんちゃんの笑顔のほうが素敵なのに……! おれの目は、おれの耳は、おれは丸ごと……亜利美に釘付けだった……!

わかるぅぅぅ! 私にはその気持ちわかるよぉぉ~!


この作品、ヒロインをムカつくと感じる人は多そうですが、主人公をウザイと感じる人もまた多いでしょうね。彼は他人によく思われたい一心で自分を演じている打算的な人間で、親切心を働きかけるのは純然たる善意ではなく、他人の感謝や羨望を期待しての下心。でも、異性の気を引くために、自分をよく見せようとするのは当たり前だと思いますし、見栄を張らずにありのままを晒せる人間なんて一握り。ある意味、一重君はとても人間らしい主人公だったと私は解釈しています。

その上で彼への好感が持てるのは、恋愛に対してものすごくストレートなところ。軽口を叩いて飄々としていても、気持ちだけは本気。臆することなく、誤魔化すことなく、まっすぐ彼女を見据えて自分の気持ちを正直に伝えることができるのはカッコイイ。私は計算高くも自分の気持ちを偽らない男の方が、鈍感を装って好きという気持ちを偽り続ける男よりも、何倍も誠実に感じますね。

一方、亜利美は媚びない、靡かない、阿(おもね)らないヒロイン。知的なクールビューティーであるのと同時に、筋金入りの負けず嫌いでもあって、彼女との会話はいつも言い争いのような蘊蓄の応酬。知識を自慢気にひけらかし、相手が正答に辿り着けないようだと満面の笑顔で勝ち誇り、逆に自分が言い淀むようなことがあれば、ムキになって悔しがるという実に微笑ましいやり取り♪ 亜利美の勝ち誇っている顔、悔しがっている顔がなんと愛らしいことか! どちらの表情も堪りませんっっ!

デートに誘ってみれば、歯牙にも掛けないようなつれない態度。粘って、粘って、何とか承諾の言質を取り付けても、今度はあれやこれやと偉そうに条件を付けてくる。まったく、面倒臭い女です。

が、そんな彼女に対しても、「あーもうっ。ほんと燃えてくるよっ、この女っ」と逆に一重君は闘志を燃やしていまして~。どれだけ憎まれ口を叩かれても、“語尾にハートマークがあった”ことに身悶えし、亜利美の言葉遣いが「本当に」から「ほんとに」と微妙に変遷したことに距離感の縮まりを感じ取るという超が付くポジティブシンキング。正直、彼の脳は完全に焼かれていると思う。

しかし、それらは全部私も共感できてしまうから困ったもんですね…。面倒臭い女だからこそ燃えてくるし、何気ないハートマークに喜びを見出して、「本当に」と「ほんとに」のニュアンスの違いに、大きな前進を実感していました。私の脳も既に焼かれています。ジャンキーです。


ま、押して押しての恋愛が好きな人なら、この辺の微妙な機微を多少はわかってもらえるはず。とりつく島がない彼女の態度が徐々に軟化していくのは、やっぱり快感ですよ! 武田信玄の土竜攻めの如く、地中深くを掘りながら敵の城に一歩一歩向かっていくような感覚で、進みは遅くとも、確実に勝利の時に近付いているという実感が、気分を高揚させてくれる! ひとたび敵の城内まで坑道が通れば、後は一気呵成、どんなに堅固な城でもあっという間に落城してしまうものですからね! まさに、これまでの努力が報われる瞬間

でも、落城したとはいえ、亜利美は完全に兜を脱いで平伏してしまうわけじゃない。そこがまたいい! 彼女の負けず嫌いはベッドの上でも続いていて、主導権争いはここでも再び交わされます。基本的にツンデレの類は、惚れた後は主導権を男性に禅譲するタイプが多いですけど、私はどちらか一方がイニシアチブを保有するのではなく、常にそれを奪い合おうとする関係の方が断然好き。野球だって表裏で攻守が入れ替わるから成立するのであって、一方が攻撃ばかりしていては見る気しないでしょう。イニシアチブは持つことに意味があるのではなく、取ろうとすることに意味がある!

心を開いてからの亜利美は、これまでの冷たい印象がすっかり消え、ノリのいいフランクな彼女になっているので、主導権争いといっても傍目にはイチャイチャしているとしか思えませんしね~。やられっぱなしでは気が済まない亜利美と、負けず嫌いな彼女の性格を逆手にとって自分の優位に持ち込もうとする一重君。やられたらやり返す慈しみの連鎖。お互いが「最後の一言」を相手に言わせてやろうと、意地を張り合っているのも可愛くて可愛くて。


エッチシーンでは、「負けず嫌い」と同時に、「博識」であることも大きく作用しています。一重も亜利美も経験こそないものの、性知識は充分に備わっているため、興味としてそれを実践してみたいという欲求があるんですよ。特に亜利美は顕著で、匂いを嗅ぐとか、包茎の実態を学ぶとか、オナニーを見学するとか、知的好奇心の名目でかなり大胆な行動にも出てくる。ドキッとするような単語もさらりと口走るし、知識が豊富と言うことがそのままエロさに直結しているんですね。“エロ賢い”の魅力をまざまざと見せつけられました

なので、初体験のシーンからあり得ないぐらいエロかった! トロトロに蕩ける甘い言葉、貪欲に求める激しい情欲、好奇心に衝き動かされる大胆さ、いつ終わるかしれない継続性。お互いが初めてのエッチを心から楽しんでいるって感じが出ていてすごくいい!

「ほんとにもう……このひとったら。どこまで上がり込んでくる気なのかしら。ひとの体に」
「行き止まりまで(はぁと)」

いいなぁ、このムード!! 完全にラブラブバカップルなムードが蔓延していて最高! 事後にはピロートークまでちゃんと用意されてあって、和姦エロゲとして私が求めるものは総て詰まっていました! オーダーメイドならともかく、既製品でここまで要求通りの作品が出てくるなんて、一体全体どういうことでしょう。嗚呼、あまりに思い通りすぎて怖いっ!!


だからというか、私以外の人間がプレイしても、私ほど評価が高くなることはないんじゃないかと思います。客観的な評価なら、せいぜい6,70点ぐらいが関の山って感じもしますしねぇ。たまたま私の理想にハマりまくっていたというだけで、万人にとっての名作であるとは必ずしも言えません。

しかし何にせよ、これだけ理想的な作品に引き合わせてくれたことを私は神に感謝したい「こんぶ」で裏目を引かされた単独ヒロイン特化型作品で、今度は見事に万馬券を引き当ててやりましたよ! これで「こんぶ」の負け分は完全にチャラ! やっぱり、博打の負けは博打で取り返さなきゃね☆

会話の面白さって、=頭の良さだと私は思っています。物事を、言葉を知っているからこそ、機知のある言い回しが出来るもので、豊かな発想や頭の回転の早さは必要不可欠。そういう意味で、学のある2人の会話は実に面白いんですよね。2人の会話だけでご飯3杯は食べられます!

ペダンティックAVGといっても、テキストは存外親しみやすい(漫符が多かったけど)ものなので、敷居は高くなく、誰でも気軽に楽しめる作品ですよ。もっと高尚ぶって「無学な奴は置いてけぼり!」な冷たい感じを想像していたんですけどね。蘊蓄の1つ1つも「へぇ~そうなんだ~」と普通に勉強になりました。歴史(戦国時代)関係のネタが多かったのは、個人的に嬉しい。

100点満点を付けることに何ら抵抗のない内容だったんですが、やはりボリュームの少なさだけは看過できないところ…。私は1つ1つの文章を噛み締めながらプレイしたにも関わらず、やはり物足りなさは残ってしまいました。初エッチシーンが最高だと猛烈に褒め称えましたけど、それがエッチシーンのピークだったのも寂しい。CGもいくらなんでも少なすぎます!!

紀子(どんちゃん)、真路乃のサブキャラを攻略したい気持ちは一切起きませんでした。彼女らに不満があったわけではなく、むしろ、2人ともものすごく魅力的。でも、亜利美に惚れすぎていて、浮気する気が一切起きなかったのです。

これほど惚れたる素振りをするにあんな悟りの悪い人、真柄亜利美。知的で痴的なところが素晴らしい。「精液で泥酔しちゃいそ……(はぁと)」は名言でしょ。

彼女が最初に主人公を嫌っていた理由は笑えました。冷静に考えたらメチャクチャな理由ですけど、意表を突かれるとんでもない理由だったので~。

こういったラブラブ和姦モノは、実は最後まで気が抜けない。何故なら、最後に子作りを始めようとする輩が後を絶たないからです。生活力もない学生の身分で無責任な子作りをされては、気分を害したまま後味の悪い結末を迎えてしまいかねない。そんな安易な展開にならないことだけを願っていました。

さかしき人にみるこころがどうだったか……は言えませんが、でも、これなら問題はなし。私は最後まで気分を害することなく、幸せな時間を堪能できました。一重君はやっぱり男だよ
2008年6月7日