発売日 2010年5月28日
 メーカー ALcotハニカム 
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兄思う心に勝る兄心
おるごぅるさんの引退がカウントダウンに入ってしまった中、リアル妹がいる大泉くんのばあいは、実におるごぅるさん「らしさ」が溢れる作品でした。主人公とその友人がエロゲ好きということもあり、メタ視点気味にエロゲのお約束を茶化したような言い回しが豊富で、捻くれたおるごぅるさん(誉め言葉)ならではのテキストが随所に光っています

「シナリオの後半で妹が消えたり発病したりで強引に涙を誘うような話は勘弁な」
「ヘタレな上に鈍感な主人公なんて総叩きだぞ」
「主人公の親友ポジションっていうのは、みんなこういう腹立たしい気分だったんだろうなぁ」
「俺だって、現実で『はうぅぅ』とか言う女がいたらグーで殴るわ」


彰との日常会話は楽しくって仕方ありません! 今回、この彰という友人キャラが、非常に良い味を出していまして、この作品を語る上で外せない存在だったのです。追々じっくりと語らせていただきますが。


さて、本題は、リアルな妹がいるがゆえにエロゲの妹に理想を求めた大泉涼君のお話。ある日、そのエロゲの妹が突然PCを飛び出して、現実の世界に顕現することになります。こういった設定だと、現実妹の栞と二次元妹の麻衣との対比を楽しむのが通常だと思われますが、どうもその辺の焦点はぼやけていて、リアル妹orエロゲ妹の構図にはなりきれていなかったんですねー。

お兄ちゃんを健気に慕ってくる麻衣とは異なり、栞はお兄ちゃんに対して冷たく素っ気ない。しかし、既にそういった二次元妹はおるごぅるさん自身がうちの妹のばあいでやっておりますし、最近では他作品でも珍しくなくなりました。つまり、栞も立派な二次元妹なんですよ。麻衣はアルカイックな妹キャラですので、むしろ今となっては、栞みたいなタイプの方が馴染みある二次元妹だと言えるんじゃないでしょうか。

こうなると、二次元なのがアイデンティティである麻衣の存在は、どうしても希薄に感じられます。主人公自身も、麻衣をそれほど歓迎する素振りが見られませんでしたし、せっかくわざわざPCから飛び出してきてくれたというのに、何とも所在なさげ。栞の引き立て役、噛ませ犬っぽいイメージは、最後の最後まで払拭できませんでした

おるごぅるさんは、最初から涼と栞が親密になるためのキューピッド役として考えていたんでしょうかね…? でも、橋渡しとしてもそれほど役に立っていませんでしたが…。麻衣の存在意義がイマイチよくわからない。


いっそ麻衣は大泉家ではなく、妹尾家にやってきた方が面白かったような。兄が彰なら、もっと麻衣を贔屓して溺愛したでしょうし、現実的で可愛げのない妹美紀との対比も浮き彫りになって、リアル妹orエロゲ妹の構図が描けたはず。何より、私は大泉兄妹より、妹尾兄妹の方が好きなんだー!! 彰と美紀の兄妹に思いっきり感情移入してしまったので、こっちがメインの方が私としては嬉しかった。

彰は普段、妹に対してクソビッチだの萌えないゴミだの散々な言い草なんですが、他の男が妹の裸を覗こうとしたり、バカにしたりすると本気でブチギレるところがお兄ちゃんしてるわ~。反省しながらぽつりと呟いた「妹の悪口を言っていいのは、兄貴だけなんだよ」のセリフにもじーんと来ます。

リアル妹なんかには興味がないと言いつつ、本心では誰よりも妹を大切に想っていて、妹が幸せになるのを希っているものの、実際に彼氏ができるとやっぱりムカつくという、複雑で理不尽な兄心。涼と美紀が交際を始めてからは、ますます彰のお兄ちゃんっぷりに磨きがかかり、過保護になりすぎて逆に妹に疎まれるという悪循環は、まさに兄としての悲哀をリアルに表現していますよ。そんな彰の境遇が可笑しくもあり可哀想でもあり。

でも、やっぱり彰はカッコイイんです。親友が自分の大事な妹と付き合っていることにショックを受けながらも、「俺は兄貴として、お前に頭を下げるわ」「妹のことをよろしく頼む」と言えるところは感動しました。そして、「妹に恋人ができて、こんな寂しい思いをするぐらいなら……俺は二次元の妹だけでいい」と寂しそうに自嘲するシーンでは、不覚にも涙がぽろぽろ。“現実の妹に失望したから二次元の妹に走った”とずっと主張していた彰だけに、不意に漏らした本音が切なくて切なくて。

そんな兄の愛情を袖にして、目の前で彼氏(主人公)といちゃつきまくる美紀はひどい女だと思われるかもしれませんが、それは兄妹愛と異性愛を混同している者の意見。美紀は美紀で、兄の真意をちゃんと理解できていますし、幼い頃から自分を守ってくれたことに内心で感謝している。兄妹の間柄はそれで充分なのです。それ以上を求めてプラトニックな関係でなくなれば、もはや兄妹愛とは呼べませんからね。涼と栞の2人も睦まじい兄妹愛を見せてくれましたけど、彼らはセックスしている時点でもう異性愛(それが悪いという意味ではなく)。 彰と美紀の2人に、本当の兄妹愛を見せてもらった気分です。


私の中では、完全に「リアル妹がいる妹尾くんのばあい」でした。大泉兄妹に不満があったわけじゃなく、それ以上に妹尾兄妹が素晴らしかったということ。数々の魅力的な妹キャラを生み出し、「おるごぅるさんといえば妹キャラ」みたいなイメージが定着しつつありますが、本当におるごぅるさんが得意なのは、妹よりもお兄ちゃんの方じゃないかと私は思いますね。カワイイ妹キャラは他で見られても、涼&彰のようなカッコイイお兄ちゃんは、他ではなかなかお目にかかれません。

おかげで、当初とはいろいろ思惑が外れてしまった作品でも、最終的には「メチャクチャ面白かった!」と結論。さすがおるごぅるさんだと改めて感心させられた珠玉の1本です。ああ、こんな才能がもうすぐ潰えてしまうなんて…。侘びしい。

ボリュームのなさは否定できませんが、中身のぎゅっと詰まった過不足ないシナリオ。ダラダラ無駄に引き延ばされるより、これぐらいまとまったものが良いですよ。

栞と迷うところですが、妹尾美紀で! 栞は兄を表面的に軽蔑しているとはいえ、やっぱり「お兄ちゃん好き!」が外に漏れ出ているんですよ(そこが良いのかもしれませんが)。その点、美紀は戸締まり完璧。密封状態。だからこそ、僅かな「お兄ちゃん好き!」が破壊力あります。本当に僅かですけどね。
2010年6月2日