発売日 2011年2月25日
メーカー WHITESOFT 
日本人のシュレディンガー好きは異常
代表作がそれほど多いわけではなく、ここ数年はまったくエロゲに携わっていなかったのに、それでも藤木隻&元長柾木という名前のインパクトはでかい。膨大な知識量を持つ両名の共作となれば、一筋縄ではいかない難解なシナリオが待ち受けているのは必定。パッケージだけ見るとただの萌えゲーっぽいですけど、こんなもの飾りに過ぎませんからね。一体、どんな手強い大作に仕上がっているのやら。肩が凝らない程度に楽しみたいので、どうぞお手柔らかに~。


さて、猫撫ディストーション(以下猫撫)、そのファーストインプレッションは「古臭い」でした。お互い久々に手掛けるエロゲシナリオですので仕方ない一面もあるかもしれませんが、内容的には相当時代を感じさせるものでしたねぇ…。ぶっちゃけ、10年ぐらい前のエロゲをやっている気分。エキセントリックな父親、幼くて頼りない感じの母親、口数少ない不思議系の妹、世話焼きでお節介な幼馴染等々、その昔ながらといえるキャラクター像が、余計その印象を強めています。奇想天外な家族たちと交わされるやりとりも、「家族計画」に引きずられているイメージがあるため、どうしても既視感が拭えなくてー。

観測者によって世界が確定されるという趣旨のシナリオも、サブカルチャーではお馴染みの量子力学の多世界解釈ですので、やはり目新しさという点では弱い。ただ、その物語の奥深さはさすがというべきで、小難しい量子論も実は物語の下地に過ぎず、家族とはなんぞや永遠とはなんぞやと、観念論を問いかけてくる哲学が本体だったりするんです。このエモーショナルな哲学シナリオが心に響くかどうかが、猫撫の肝。シュバルツシルト半径やら、フィトンチッドの効果やら、超対称性粒子やら、ただでさえ小難しい用語が飛び交って理解を追いつかせるのが大変なのに、違う意味での難解さが加わってくるので、私の出来の悪い頭ではパンク状態です。

シナリオのテーマ自体は比較的わかりやすく伝えてくれたのが救い。何を言っているのかはわかりにくくても、何が言いたいのかはわかる感じ。結衣と式子のシナリオでは、対になるような相反する永遠が語られていたり、同じ内容のようでもそれぞれに異なるメッセージが添えられている点は凝っているなと。この辺は完全に「未来にキスを」の元長柾木さんの世界観である気がしますね。確かメインライターは藤木隻さんだったと思うんですが、どうも猫撫は元長柾木さんの作品というイメージが強い…。

私は、ELYSIONの藤木隻さん目当てでしたので、正直肩透かし感は大きかったです。難解なシナリオでも、そのぶん、知的好奇心を擽ってくれれば理解する喜びを得られますけど、今回それがまったく擽られなかったのが痛恨。原因は、偏に私の哲学に対する興味の薄さ。結局、どれも頭の中で自己完結しているだけのことなので、生産性がないなぁとか思っちゃうんですよね~。

猫撫ディストーションは、かなり人を選ぶ作品であるのは間違いありません。個人的にはあまり使いたくないフレーズ(どんな作品でも人を選びますので)ですが、今回私は選ばれなかった側の人間ですから、そう言わせてください。人を選ぶ上に、「精神状態に左右される作品」であるかも。このシナリオを高尚な哲学と捉えるか、くだらない言葉遊びと捉えるか、受け手の精神状態によるところも大きいと思いますから。

例えば、心が荒んでいるときに男女のラブストーリーを見せられても、逆にイライラするだけですよね? まさに今の私がそれ。恋人同士の美しい情愛を、ただの性衝動だと穿った見方をしてしまうように、猫撫のメッセージを素直に受け入れられませんでした。理論武装で現実逃避を正当化しているだけでしょ? みたいな。

本当はもっと真剣に物語と向き合って、ちゃんと考察して、理解を深めてから評価しなきゃいけないんでしょうけど、そういう意欲が沸いてこない作品でしたのでごめんなさい。10年前にプレイしていたら、もっと印象は変わっていたかな。2011年の今にやりたい作品ではなかったです。

ミヤスリサさん、月音さん、みやま零さんはそれぞれ綺麗な絵を描かれていますけど、統一感を著しく欠いているのが嫌。家族をテーマにした作品だけに尚更。

柚かなぁ。夢想から現実に主人公を引き戻そうと奮闘する彼女は、さながらレンタルお姉さん。シナリオで一番共感できたのも柚のシナリオでした。というか、他のシナリオが意味不明でしたので。
2011年3月31日