発売日 2004年6月25日
メーカー age 
幸せの改竄
「悪いが遅刻しそうなんだ」

どれだけこの選択肢を夢見たことか。君が望む永遠special FanDiskの存在価値は、まさにこの選択肢に集約されていたといっていい。

引き止める水月の話を途中で切り上げて、遙が待つ柊町へと駆け急ぐ孝之。発車寸前の電車に間一髪で飛び乗っては、なんとかデートの待ち合わせ時間までに柊駅前へと辿り着く。そして、そこには孝之の到着を待ち続け、じっと1人佇んでいる遙の後姿が……。

もう、この後姿を見た時に、万感胸に迫るものがありましたね。間に合った喜び。何事もなく、予定通り絵本作家展へとデートに向かい、2人の恋人同士が恙無い1日を過ごす幸せ。ああ、果たせなかったはずの未来が、こうやって目の当たりに出来るなんて…。思い入れが半端じゃない作品だけに、この時点で私は、思いっきり感動しまくっていましたよ!

本来、「もし遙が事故に遭わなかったら…」なんてifは、やっちゃいけない禁忌なんだと思います。物語を構築する最大の急所を後から都合よく捻じ曲げてしまうなんて、やっぱり乱暴な話ですし、大袈裟にいえば、作品の冒涜でもあると思う。

しかし、不運な事故が起こらなかった幸せな未来も覗いてみたいのは人情。本編で決して報われることのなかった、遙、水月、茜らが幸せに喜ぶ姿を見てみたい願望は、抑えきれるものではありません。だからこそ、ageさんがファンディスクという免罪符を使って、禁じられた「もしも」を成し遂げたことには深く感謝しています。よくぞ、やってくれたと。

ただし、君が望む永遠という名作に禁断のメスを入れてしまう以上、中途半端な出来では許されない。大した覚悟もなく、その腹部を切開してしまえば、醜い傷跡が残るだけ。ageさんの腕なら大丈夫だと信頼していないわけではないのですが、あの無残なマブラヴを見せられた後では、やはり心配の種は尽きない。期待半分不安半分。いや、不安の方が若干上回っていましたね…。


揺れる気持ちを抱えながら、プレイし始めたファンディスク。ここで改めて感じたのは、やはり君望は大変に面白いということです。取り沙汰される第2章だけでなく、この第1章だけでも類を見ない傑作であると断言出来る。

第1章をプレイするのがこれで何度目になるのか憶えてはいませんが、今でもそのストーリーにはじんわりと心が熱くなってきます。恋愛、友情、進学といった、学生時代特有の楽しさや懊悩が目一杯詰まっていて、これはこれで完成された青春物語に仕上がっている。青春なんて言葉自体照れ臭くて、聞いているこっちが恥ずかしくなってくるものなのに、この君望の第1章をプレイしていても、そういった気恥ずかしさをまったく感じさせないのは、何故なんでしょうかね。

話を戻して、このファンディスクにはそんな従来の第1章に、新たな選択肢が追加されたカタチになっています。あの8月27日の事故と並んで、もう1つの運命のターニングポイントとなる「遙の告白を受け入れるかどうか」も選べるように。本編では、この告白を自動的に受け入れ、遙との交際が始まるように定められていましたが、ファンディスクではこの申し出を断り、別の未来、水月と茜のストーリーへと向かうことも可能なのです。

遙のためにずっと自分の本心を偽っていた水月と、無邪気で憎悪に満たされていないありのままの茜。そんな第1章の頃の2人と恋仲になれるストーリーは、やはり重畳。本編で2人の不遇を知っているだけに、こうやって幸せな彼女たちを目に出来るのは至福ですよ。特に茜は、君望主要キャラクターの中でも最も悲惨で憐れな役どころだっただけに、彼女の幸せは本当に嬉しい。

茜のシナリオでは、流れ的に遙を振った後の交際となるので、「姉と妹の対立が再び!?」という泥沼の展開が予測されていましたが、このファンディスクではネガティブな方向へ持っていかず、すっきり円満解決させていたのが偉かった。ファンディスクに求められていたのは「救済」なのですから、多少強引でも、「全員が幸せ」な状態を保ち続けたことはファインプレーでしたね。この時点で、私がプレイ前に抱えていた不安の種は綺麗に霧散しましたよ。


マブラヴに失望し、DVD specificationに落胆し、TVアニメ版君望に悲観し、ageさんに対する私の愛情と信頼はすっかり地に落ちていましたが、今回、このようなspecialFan Diskという最高のファンディスクを作り上げてくれたことで、そんな恨みも辛みも消え失せました。今はただ、感謝の気持ちだけで胸が一杯。これまでの数々の非礼無礼は、どうか詫びさせていただきたい。そして改めて、心よりのありがとうの言葉をageさんへと捧げたい。

君が望む永遠special Fan Diskは、本編の君が望む永遠と並んで、私の大切な宝物のひとつです。ageさん、こんなにも素敵な作品をどうもありがとうございます!!



……と、ここで綺麗にレビューは幕を閉じる予定だったのに、最後の最後、余計な「EXTRA」なんかがあったせいで、ageの印象がまた最悪へと逆戻りする。

EXTRAとは、総てのエンディングを見終わった後にプレイできるオマケシナリオのことでして、君望本編をマブラヴ風味でパロディ化したもの。これがあまりにくだらなさすぎる。「マブラヴ」という封印したい過去をムリヤリ呼び起こされただけでも大変な迷惑だというのに、その上、君望の名場面や名台詞が馬鹿馬鹿しく茶化されて、美しい想い出を台無しにしてくれているからたまったもんじゃない!

遙が眠っている間に顔に落書きされているとか、笑えんよなぁ…。ギャグそのものが寒くて幼稚ということもありますが、ここはパロディにしてはいけない場所でしょう? ふざけて良いところと悪いところの区別ぐらいつかないの? 本編で思いっきり感動していたシーンが、このようにアホらしく下劣で低俗なジョークのネタに扱われるなんて、死ぬほど不愉快ですよ。作ってる方はこれで大笑いしているのかと思うと、余計に腹が立つ

「ageさんは最高だぁっ!」と諸手を挙げて称えた数分後、一転「age死ねっ!」とブーイングさせるageさんは、いろんな意味で並のメーカーじゃありませんね。まったく、罪作りなメーカーだぜ!

君望第1章ifストーリーとは別で、another episode collectionというコンテンツがありました。これはageさんのサイト上で公開されていたショートストーリーを再構築してゲーム化したもので、内容は主に、君望主要キャラクターそれぞれの視線で、孝之君への想いが綴られているものとなっています。

しかし、これを見てると、如何に孝之君は愛されまくっている男かわかりますね。命の恩人相手でも、こんなに惚れ込んだりしないぞと思うぐらい、みんな盲目的に孝之君のことを熱愛している。彼がこんなにモテるような人間じゃなかったら、みんな不幸になることもなかったのになぁ…。孝之君が諸悪の根源だと呼ばれても仕方がない。

君が望む永遠で、好きなキャラを1人選ぶなんて不可能ですよ。だから、今回は孝之君ということで。その孝之君には、このファンディスクでめでたくボイスが付いていました。声優さんはアニメ版と同じ方だったので、違和感はなかったです。
2004年7月3日