発売日 2001年8月3日
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荘厳なるソープオペラ
愛憎渦巻く泥沼の三角関係。過酷な運命に翻弄され、次々と迫られる重大な決断。心を痛めて、涙を流して、それでも必死に探し続ける誰もが傷付かない結末…。エロゲとしては異質なほど生々しいリアリティを湛えていた君が望む永遠(以下君望)は、未だに私の心にぐさりと突き刺さったままの最高傑作です。

極めてセンセーショナルだったシナリオは、一章と二章の2段構成。本編は二章からとも言えるので、ついつい軽視されがちな前振り(一章)なんですが、私はこちらも最大級の評価で讃えたいんですよね。甘酸っぱい孝之×遙の恋人関係は、胸が熱くなるような理想的なラブストーリーでしたから。


最初は、遙からの突然の告白を断り切れず、無責任に想いに応えてしまった孝之。仮初めの恋人関係は、遙のみならず親友の慎二・水月との関係にもぎくしゃくした亀裂を生み、次第に後悔に苛まされてしまう。一方遙は、本当は孝之が自分を好きではないと勘付きながら、別れを切り出されることにひたすら怯えている。

口下手で大人しい性格の遙が、嫌われたくない一心で健気に頑張っている姿は、ホント胸が締め付けられます。みんなの期待に応えようとしたことで裏目に出てしまった孝之君の悲哀にも、胸が締め付けられる。お互い、他人を思いやれる優しい人間であるだけに切ない。

遙の一途な想いを知ることで、孝之は初めて真摯に彼女と向き合うように。遙から告白を受けた最初の場所に彼女を呼び出し、改めて自分から「好きだ」と告白。別れを切り出されるものだと思い込んでいた遙は、思いがけぬ告白に戸惑いながらも、嬉しさあまって涙。

ああ…なんて感動的なシーンなんでしょう…。いい加減な返事で傷つけてしまったことを反省し、改めて自分から告白し直す孝之君は心憎いわ。エロゲ史上屈指のヘタレ主人公と世間から散々蔑まれている孝之君ですが、私はこのシーンが忘れられないからこそ、彼の弁護に回りたくなるんですよね~。

紆余曲折を経て、晴れてラブラブなカップルになれた2人は、本当に幸せそう。駅のホームで寄り添い合いながら、仲良くミートパイを頬張り、8月6日をミートパイ記念日と名付けるなど、まさに正真正銘のバカップル。くそ~! こいつらぁ~!

ここで感心なのは、孝之君はただ幸せに溺れるだけでなく、彼女との交際をきっかけに、志望校を変えて受験勉強に励み出したこと。私がいうのもなんですが、ただ恋人とイチャイチャしているだけじゃダメなんです。メリハリをもって、頑張るところは頑張る。遙と一緒の大学に通いたいんだと、これまでの怠惰な自分から脱却した孝之君は本当に偉いですよ。誰ですか、彼をヘタレと罵る人は!!

絵に描いたような幸せいっぱいのカップル。2人の充実した日々は、このまま永遠に続くものかと思われましたが、その矢先にまさかの悲劇…。一章ラストの衝撃は半端じゃなかったです。予備知識なしで訪れた「まさか」の展開に、私の魂はどこかに吹き飛んでしまって放心状態。これほどショッキングなシーンに遭遇したことは未だかつてありませんでしたよ。主題歌Rumbling heartsのイントロが流れたら、今でもこの場面がフラッシュバックして鳥肌立って来ますからね…。


事故から3年の月日が流れて始まる第二章。長い昏睡からようやく目を覚ました遙に、3年の月日が流れた自覚はない。ショックを与えないため、3年が経過したこと、今は水月と付き合っていることをひた隠しにする孝之。だけど、いつまでも嘘は突き通せない。真実を打ち明けるべきか、否か。自分が選ぶべきは遙か、水月か。強烈な板挟みの中で迫られる究極の選択

正確には、どちらを取るかというより、どちらを捨てるかという感覚ですよね。「好きだ」ではなく、「別れよう」の言葉を切り出すまでの葛藤がストーリーの中心線。自分を本気で想ってくれている2人のうち1人を切り捨てなくてはならない心苦しさは、並大抵じゃありませんでした。決心を固めて片方を選べば、必然的にもう片方に同情が生まれ、その同情が再び決心を鈍らせるという永久ループ。夜の病院で1人嘆いている遙、自我を失うほどボロボロに変わり果てる水月の姿を見せられながら、救いの手を差し伸べてあげられないのは…辛い…。

差し伸べられないだけじゃない。救いを求めた彼女の手を振り払い、悲しみの淵に突き落とすことが孝之君の使命。何故、何の落ち度もない遙と水月を苦しめなくてはならないのか。不条理な現実への怒り。突き放すことが優しさだと理屈でわかっていても、そう簡単に人は割り切れるものじゃないですよ。誰も傷付かない方法など存在しないと言われても、最後まで足掻き続けたいのは人情ですよ。

結果、孝之君は結論を先送りにしてフラフラするわけですが、これを内股膏薬だと批難するのはあまりにも酷! 私たちは第三者として俯瞰して物語を眺めているから何とでも偉そうに言えますが、当事者としてその場に立たされば、やっぱり“賢明な判断”なんかできないですって。打算でテキパキ事態を処理できる人間の方が信じられません。それなのに、みんなで寄って集って孝之は優柔不断だって…ヘタレだって…。ひ、ひどいよ!


なんだかレビューというより、鳴海孝之擁護論になってしまったような気がしますが、元よりそのつもりだったので問題はございません。発売後、あらゆる場所で孝之君がバッシングを受けているのを見ると、その都度私は心が痛む。孝之君だって、心に大きな傷を負った被害者の1人なのになぁ…。

彼のだらしなさ、ファジーな態度に一切イライラしなかったわけではありませんが、最善を尽くそうと精一杯行った努力の結果を、私はバカになんて絶対できないですよ。それに、最後の決断は他人に委ねることなく、常に自分の意志で、自分の責任で行いました。この時点で、他の大半のエロゲ主人公よりマシです! 決断が遅い、優柔不断といっても、なんだかんだで孝之君はこの複雑な関係を1ヶ月で精算していますしね。私なんて未だに遙か水月か決めきれないのに。

君望という物語は、鳴海孝之の物語なので、彼を快く思えなかった人はご愁傷様としか言いようがありませんが、私は孝之君が大好きでしたし、引いては君望も大好き。今後どれだけの名作に巡り会うかはわかりませんが、それでも君望のことは、永遠に心に残り続けることでしょう

「全部オレが悪い!!でも……それだけを言い続けていたら……もう……心がもたない……助けてくれよ……」
「何で……何で……なんでこうなっちゃったの!!私が何したっていうのよぉぉ……」
「だって……ずっとずっと……ずっと好きだったんだから!!」
「悔しい……悔しい……どうして私、黙ってみてたんだろう。どうして、あの人が鳴海さんの心に食い込んでいくの、ただ黙って見てたんだろう!!」


孝之を始め、遙も水月も茜も、みんなそれぞれが自分に責任を感じ、自分を押し殺してギリギリの中で生きている。だからこそ、時折見せるエゴイスティックな本音に胸を打たれました。責任を抱え込んで押し潰されそうになっている姿を見ると、やっぱり本音を叫んで楽になって欲しいと思いますしね。見ていてすごく痛々しいですから。

大体、この作品で一番悪いのは、間違いなく事故を起こした加害者。その人間に対する言及が劇中に一切なかったのは、作品の美学と言えるでしょうか。

涼宮遙の純真と速瀬水月の献身。そこに優劣なんて付けられません。責任感とか、道義心とか、そういう立場上のややこしい縛りを抜きして、単純に2人のヒロインを比較しても、甲乙付けがたいものがありますよ。タイプが正反対な2人なのに、ぴったり同じぐらい魅力的。このバランス感覚は奇跡。
2002年3月5日・2010年5月20日