発売日 2006年5月25日
メーカー enterbrain 
鶏肋、鶏肋
高校2年の夏休みが終わった。何もない夏休みだった……。今日から新学期。高校生活もこれであと残り半分。このまま、出会いも何もなく終わってしまうんだろうか? ……僕は、まだキスをしたことがない。恋も……したことがない……。憧れてる子はいるけど、ろくに話もできない。「このままじゃダメだ、もっと積極的になろう!!」待ってるだけじゃ、きっと恋は始まらない。一ヶ月ちょっと先の学園祭を、好きな女の子と一緒に回ることができたら…。

思わず、公式のあらすじを抜粋してみましたが、これぞ私の求める理想的な純愛ストーリーといった感じですよ! 何事もなく学生生活が過ぎ去っていく焦燥感に、異性と付き合いたい、キスしたいといった思春期的願望。その2つに衝動に背を押され、消極的な自分から脱却を図ろうとする姿勢に好感! 好きな女の子と学園祭を一緒に回りたいという他愛のない夢に必死になれるのは素敵じゃありませんか~! 青春だなぁ~♪ 「待ってるだけじゃ、きっと恋は始まらない」というご高説は、是非とも他の萌えゲーの主人公連中に聞かせてやってください。


そんなわけで、今までエロのないギャルゲーは頑なに拒否し続けてきた誇り高い私が、20代も半ばにして遂にエロなしギャルゲーに手を出してしまいました。何でしょう、この屈辱感。まぁ、私の中で「キス=性行為」なので、キミキスは立派なエロゲだと思っていますけどね!

しかし、作品としての水準はそのエロゲに遠く及んでいなかったという悲しみ。コンシューマーの方がエロゲより予算が潤沢である分、当然、完成度もエロゲよりずっと上であろうと思い込んでいましたが、その認識は大きな誤りだったよう。全体の作りは驚くほど古色蒼然で、エロゲでいえば、同級生、下級生の時代を彷彿する古臭さですよ。「設定」は音声とBGMのボリューム、振動の有無しか決められず、セーブ&ロードは1日の終わり限定。その上、メッセージスピードをノーウェイトにできないわ、既読スキップもできないわ、バックログもないわ、演出の簡略化もできないわ、ボイスの再生もないわと散々で、用意されていたのはオートモードぐらいなもの。それも速度設定できるような便利さは備わっていません。エロゲではあって然るべきものが、ことごとく存在していないのですから、環境の不便さは常に感じていましたね~。PS2のコントローラーにはたくさんのボタンが付いているっていうのに、ほとんど飾りじゃないですか。

古臭いと感じるのはシステム周りだけに留まらず、ゲームの内容、テキストにおいても同様。キミキスは言うまでもなく、女の娘との会話が肝である作品ですが、その会話が炭酸の抜けたNUDAのように無味無臭なのです。今のエロゲに慣れ親しんでいる人には、特にこの味付けゼロのセリフ回しには面食らうのでは? 感情のこもらない定型文ばかりですもん。

会話が味気なくて盛り上がらない理由は、主人公が極度の口下手であるところにも起因している。元々消極的で大人しい性格であるせいか、かなりおっかなびっくり話しかけている感じで、話題を振られても「あ…」「へぇ~っ」「そうだね」を口癖のように繰り返すだけ。気の利いた言葉を返すどころか、まともな会話にすら発展しない。

「どんな小説を読むの?」
「恋愛小説を読んだよ」
「偶然ね。私も恋愛小説が一番好きなの」
「じゃあそろそろ行くよ」

せっかく向こうが話に食いついてきてくれたというのに、突然ピシャリと話を切り上げて去る主人公。普通、ここからどんな恋愛小説が好きなのか、お互い語り合ったりしません? そうやって親交を深めていくもんでしょう??

キミキスはどんなイベントにしても、話の主題部分がぽっかり欠落しているケースが多くて。学食で一緒にランチを誘うとき、「一緒に食べない?」という経緯までは描かれているものの、肝心のランチ風景は「……そんな感じで○○さんと楽しんだ。」と画面が暗転して省略されてしまう。デートを含めて、全部が全部この手のパターンだから堪ったもんじゃないです。プレイヤーが一番見たいであろう部分を黒く塗り潰さないでよ!


と、なんだかのっけから貶してばかりのレビューになってしまいましたが、システムが古臭い、セリフ回しが稚拙、ストーリーが陳腐なのは否定できない現実のことなので仕方がありません。ただ、だからといってキミキスを駄作と決めつけてしまうのは早計。キミキスは恋愛アドベンチャーではなく、あくまで恋愛シミュレーションであり、その辺の意識の切り替えさえキッチリできれば、感じ方も違ってくるのです。

読み物として、常にプレイヤーが受動的な立場である恋愛アドベンチャーに対し、恋愛シミュレーションは自分の行動で女の娘と親密になっていくインタラクティブ性の高さが売り。ターゲットの女の娘が好きそうな話題を予め用意しながら、会話を盛り上げて好感度を得る。相手との親密度を測りながら、徐々に突っ込んだ会話の内容に移行するなど、ゲームとしての面白さが強みです。

そして、キミキスの最大の強みはなんと言っても「キス」。様々なシチュエーションのキスがふんだんに用意されているのが嬉しすぎる~。私は恐らく皆さんよりもキスの格付けがグッと高い方で、キスに対する思い入れ、有難味は人一倍。ラブラブになってからの所構わずのキスはもう最高! 水泳の授業が終わった後、スクール水着のままキスとか、下手なエロゲよりエロい。マウストゥーマウスの普通の口付けだけでなく、思いも寄らぬアブノーマルなキスもあったりして、摩央姉ちゃんとの初キスなんて、膝小僧にですよ。キスをしたことのない主人公が、初めてのキスとして選んだ場所が膝小僧。摩央姉ちゃんの前に跪き、制服のスカートから露出した膝小僧にキスです。受け入れた摩央姉ちゃんもすごいけど、実際にやり遂げる主人公もすごい…。


キミキスの主人公は基本的にものすごく臆病な性格で、自分から女の娘を下の名前で呼ぶことすらできない小心者なんですが、キスに関しては有り余る性欲に衝き動かされてか、別人のように行動が大胆になるんですねぇ。

星乃結美との時だって、まだ一言二言の会話を交わすそれほど親しくない関係だというのに、何を血迷ったのか「ほ、星乃さん、ちょっと来てくれる?」と有無を言わさずムリヤリ人気のない校舎裏へと連れ込み、開口一番「星乃さんって…キスしたことある?」といきなり恐ろしい質問をぶつけやがりますから…。完全に挙動不審な主人公。一歩間違えれば……いや、一歩間違えなくても変質者ですよ!

ちなみに、そのときの星乃さんの反応は、戸惑いつつもなんとか平静を取り戻して「…したことない」と律儀に答えてくれました。不躾な質問を真面目に回答してくれる星乃さんは優しいなぁ。本当なら大声で助けを呼んでもOKなシチュエーションだったのに…。

星乃さんは最初あまり私の興味を惹かないキャラでしたが、攻略しているうちにすっかり気に入ってしまいました。彼女は主人公と同じく奥手な性格を直したいと思っている女の娘で、まさに似たもの同士のカップル。ぎこちない会話が不満だったキミキスでも、この2人の場合は逆に初々しい感じが出ていて効果的だったんですよ。

事前の期待を遥かに上回ったキャラといえば、二見瑛理子もそう。IQ190の天才少女で、他人を寄せ付けない空気、クールで棘のある物言いが特徴の彼女は、名状しがたい強烈な色気を放っていまして。口元にそっと添える手、髪を掻き上げる仕草、微笑みながらの流し目、そのどれもが異様に色っぽくて、何度もドキドキさせられます。もう完全に虜になっちゃいましたね。初めは全然恋愛対象として見てもらえないけど、段々彼女の中で心境の変化が芽生えていくのも魅力。恋愛シミュレーションにおける一番の妙趣はやはり「ヒロインの心境の変化」ですから、二見瑛理子のようなキャラは特に魅力的に感じますね~。


さて、レビューも長くなってきたのでそろそろキミキス総括。しかし、今回の作品はなかなか評価を決めきれないというか、本当に迷ってしまう…。巨視的な観点から言えば、キミキスは決して褒められた出来ではないんですよ。間違いなく。いくら恋愛シミュレーションとはいえ、ストーリーがありきたりすぎてつまらないし、肝である会話の稚拙さは致命的。イベントの数もまばらで、ヒロインに個性はあっても攻略はパターン化されているから、3人目、4人目以降になると完全に作業プレイと化してしまうなど、作り込み不足が露呈しています。

探せば不満はいくらでも出てきて、逆に良かったところはというと、ほんの僅かなごく一部分のみ。まさにキミキスは味わうべき肉がほとんど付いていない鶏のあばら骨のような作品だったのですが、その僅かな肉には捨てがたい美味があるので、判断を難しくしているのです。

原画の高山箕犀さんの絵による魅力は途轍もなく大きい。キャラ全員本当に可愛くて、「こんな娘と会話したい!」と心から思わせてくれる。赤い頭や青い頭がいたりせず、みんな黒髪・茶髪なのも自分としては◎。

二見瑛理子も素晴らしかったけど、やっぱり摩央姉ちゃんこと、水澤摩央が私のFAVORITE。中学の時ガリ勉少女だったのが、受験に失敗をきっかけにオシャレに目覚め、垢抜けて美人になったという極めて私好みの設定を持っています。幼馴染で1歳年上のお姉ちゃんであったり、実は目が悪くてコンタクトだという設定もそそられます(時折メガネ姿も見せて欲しかったけどね)。

キスに対しても非常にポジティブな考えの持ち主で、恥ずかしがって照れる主人公をからかいつつ、優しくキスを教えてくれるというのが堪らない~♪ 私も大きくなったら、摩央姉ちゃんと結婚したいよ!

ただ1つ不満を言わせてもらうなら、摩央姉ちゃんに異性との交際やキスの経験がなかったということ。これだけモテて男女問わず友人の多い彼女が、今まで誰とも付き合った経験がないのは不自然。キスを教えてあげるって立場なのに、その本人にキスの経験がなかったりするのも、どうかと思うよね~。

こういうのって、「真っ新じゃないと許せない人」に気を遣った設定なんだろうなぁと思えて萎えてきます。過去に摩央姉ちゃんに彼氏がいようと、既にファーストキスを済ませていようと、そんなことで嫌悪感を持つ人の方は少数派でしょ? こんな過剰反応はしないで欲しい。

エロゲは今、右も左も上も下も恋愛アドベンチャーばかりで、「シナリオの優劣」というミクロの部分でしか競い合えていない状態。だからこそ、こういった目先の違う恋愛シミュレーションは新鮮に感じますし、それだけ評価したいなと思えます。

キミキスのような不完全な作品でも面白いと感じるんですから、エロゲのメーカーさんがこれまで培ってきた経験を活かしてちゃんとした恋愛シミュレーションを作れば、もっともっと面白い作品ができるはずなのになぁ~。画面の綺麗さだけがゲームの善し悪しじゃないように、シナリオの完成度だけがエロゲの善し悪しではないので、もっとゲーム性やアイディアを重視したエロゲが出てくることを願いますよ。恋愛アドベンチャー一色な現状にはそろそろウンザリ。
2006年6月7日