発売日 2002年6月28日
メーカー Purple Software 
奏 ~Kanade~
801番目の世界にようこそ
先天的虚弱体質であり、20を迎えるまでに死は免れないとまで宣告されていた主人公雪也。しかし、彼の身に起きたある奇跡により、徐々にその身体は快復へと向かう。春には病院を退院するまでに至り、大学へも通えるようになった。雪也は、「十年に及ぶ入院生活で世話になるばかりだった自分が、今度は誰かの為の力になりたい。」そう願うのであった…。

このようなあらすじで幕を開ける奏。主人公雪也には、エロゲの主人公としては珍しくバックボーンがしっかりと確立されております。奏は他のエロゲとは一線を画した、「読み物」としてシナリオ一本で勝負をするような作品です。

しかし、そんな「読み物」とは言えど、シナリオの順序すらも半ば強制的に定められてしまっていたのには強い不満が。このゲームでは各キャラクターの攻略順があらかじめ決められてしまっているのですね。クリアするごとに新たな選択肢が生まれ、それを辿るとようやく別のキャラクターのシナリオが楽しめるようになるという仕様で、自らの赴くままに進めていくことが出来ない。ここら辺はまぁ、なんとも融通の利かないところでした。

そして、輪をかけた問題であったのが、攻略するキャラクターが変わっても大筋でのシナリオの流れが全く違わなかったということ。つまり、これは既読の部分を何度も何度もなぞらなくてはならない、反復シナリオになっていた結果を意味します。

物語の大きなターニングポイント、従姉の香苗が夭折(ようせつ)してしまうイベントは共通であったとしても、その他は、個々のキャラクター達の個別のシナリオをきっちり用意しておかなくてはならないはず。一つのシナリオの端々をチョコチョコ書き換えたようなシナリオでは、せっかくの元の優れたストーリーも台無しです。初回プレイでは大いに感動させられた物語であったのに、2度3度繰り返し見せられる無神経な演出で、総てがぶち壊しとなってしまっていました。

ぶち壊し……といえば、物語終盤の天使とバトルってのもキツかったですね。断言できますけど、こんな展開は必要がなかった。

天使と闘うなどという非日常が強まれば強まるほど、死という「日常的な中での事件」の意味合いが薄れてしまう。この物語の最も大きな意味を為すイベントは、紛れもなく「香苗の死」である訳ですから、これを不用意に軽んじさせてしまう展開は避けるべきでしょう。

しかも、この天使たちとやりとりの事後は、遂に最後まで語られませんでした。禁忌を破ってまで天使と争った遠子のその後は闇の中。後方に憂いを残したままで、勝手にハッピーエンドの幕を下ろしてしまうのは如何なものでしょうか。

この奏という作品は何が恐ろしいかって、女性ヒロインたちよりも、主人公の男友達である国枝博正の方が魅力的だったことですよ。

彼はスポーツ万能、話も達者で、ルックスも最高にイケている男。一見、軽薄そうな外見から連想するイメージとは裏腹に、聡明さも見せてくる。そんな博正には、雪也が最愛の従姉を失い絶望のあまり自暴自棄に陥ってしまっている時に、叱咤激励で彼を奮い立たせるという見せ場があるのですが、その際に雪也へ言い放つセリフが、非常にドキドキさせられるような危ういセリフなのです。

 博正「世界中の誰もが必要としなくなっても、俺は絶対におまえを必要としてる」
 雪也「…いつもそう言って女の子口説いてるの?」
 博正「バカ、こんなこっ恥ずかしいこと、女相手に言えるもんか。お前が初めてだよ」

男が女に向けて放つ言葉としてはポピュラー。なれども男が男に向けると、その言葉の意味合いが大きく変わってくる危険すぎるセリフ。茶化さず真っ直ぐに投げかける博正の言葉には面食らってしまいます。

続いて、ようやく自分自身を取り戻した雪也に向けて、博正は優しくこう一言。

 博正「そうだ。雪也、笑えよ。おまえは笑っているときの顔が一番いい」

な、なんと言うセリフを……。漂う甘いムードに乗じて、私はこの後てっきり、二人のキスシーンが待っているのかと思いましたよ…!

いやはや、なんとも洒脱な男です。キザでありながら嫌味なく響く独特の言い回し。もし本当にこのとき口付けを迫ってきたなら、抗うことはできたであろうか。そんな危険な妄想に取り付かれてしまうぐらいの魅力が、彼にはありました。

内向的な雪也とそれをリードしていく博正は、カップリングとしてはムリのないものである気がしますしね。博正自信、主人公の事を「女みたいに可愛いヤツ」と思っているようなので、今後二人の間に、絶対に間違いが起こらない保証はありません。

無難にお姉ちゃんの香苗で。彼女は、世界を股にかける一流のヴァイオリニスト。豪放磊落(ごうほうらいらく)な性格でありながらも、弟の事を誰よりも強く想う素晴らしいおねーさんです。特に、死後、彼女の日記で綴られる真実では……。おっと、これは是非プレイをなさって確認してくださいね。
2002年8月20日