G線上の魔王
メーカー〔あかべぇそふとつぅ〕 発売日2008年5月29日


魔王の正体なんて枝葉末節
武士道精神を尊ぶ我が国であるまじき発言ですが、私は正々堂々という名の単純な力比べが好きになれなくて。相手の裏をかいた謀(はかりごと)や卑怯な騙し討ちなど、戦いは須くペテンを用いた頭脳戦でなければ意味がないと思っています。呂布と張飛の一騎打ちよりも、諸葛亮と司馬懿の頭脳戦の方が断然燃えますしね~。

従って、私にとって一番の楽しみは魔王との頭脳戦。丁度、この作品をプレイした同時期にコードギアスを見始めたこともあり(死ぬほど面白いね、これ)、心なしか声がルルーシュに聞こえてしまう魔王にはどうしても思い入れが強くなります。知略に長けた彼が一体どのような奸策を弄してくるのか、興味はその1点でした。

ところが、どうも魔王が好きになれない。確かに彼は知能犯として文句なしの才覚で、次々とこちらの予測を上回るトリックを見せてくれました。権謀術数を張り巡らし、裏の裏の裏まで見通して他人を出し抜いてしまうところは痺れます。が、それでも彼に対する「カッコイイ」という感情移入が阻まれてしまったのは、悪として共感する部分がなかったからでして…。

卑怯を肯定する私は、当然「悪」のキャラクターが好みですが、それは自分より大きな悪、巨悪を相手にするという前提があってこその話。この魔王とやらは、無辜の市民を標的にした単なる弱い者イジメの愉快犯でしかないんですよ。特に第2章での印象は最悪。住居の立ち退きを迫るために幼子を誘拐して、一家を地獄へと追い詰めるんですから…。遊興気取りで、身代金誘拐という卑劣な犯行に及ぶ魔王がなんと憎々しいことか。これでは感情移入できないのは当然です!

せめて彼の目的さえ明確ならば、まだ良かったんですけどね…。ルルーシュにしろ夜神月にしろ、手段は「悪」であっても目的は「悪」じゃないことが最初からハッキリしていました。その点、魔王は肝心の目的がぼやけているため、悪事に共感することが厳しい

でも、魔王よりもっともっとムカついたのは、事件に便乗して漁夫の利を得ようとする主人公の京介。彼は弟が誘拐された椿姫(つばき)の助けになろうと親身な友達面で近付いておきながら、裏では誘拐事件に荷担して追い込みを掛けているというド外道。人を疑うことを知らない心優しい椿姫を、いいように誑(たぶら)かして利用しようとする薄汚い連中がムカついて仕方なかった…。この頃、私は魔王と京介が揃って地獄に堕ちるよう、ずっと心で祈りながらプレイしていましたね。

あと、この件でもそうですけど、主人公の立場がいつも第三者なのはどうなんだろう~。魔王と勇者の対決の図式の中に、主人公の姿がない。例えるなら、夜神総一郎が主人公のDEATH NOTEみたいなもの。そりゃ確かに彼も重要な役目で見せ場もありますが、月とLの対決の前では存在が霞むでしょう。主人公は当事者から外れた傍観者の意味合いが強く、ここぞという場面ではいつも宇佐美ハルや他のキャラクターが活躍している。京介君は何をしているかというと、魔王とハルの戦いに巻き込まれた傷心のヒロインを獲って食って悪巧みしているだけ。なんでこんな火事場泥棒みたいなハイエナ野郎が主人公なのやら…。


物語としては、よく練られているなというのが伝わってきて、落着点から二転三転と事態が変化していくのには上手いと感心させられます。魔王が一方的すぎて、知恵比べという本来の興趣からは少し逸れていたものの、魔王の狙いを読み取りながら足取りを追って行く展開はさすがに燃えてくるものが。主人公と違って、ハルにはたくさんカッコイイ見所がありますしね。しかし、やっぱり不愉快な心情が拭えたわけではないので、面白さと不快さが混濁したとても奇妙な気分でのプレイを余儀なくされました。

風向きが変わったのは、第5章が始まってから。魔王との最終決戦を迎えるにあたり、ようやく彼の正体と目的が明らかに。そして、引き起こされる未曾有の大事件。息もつかせぬ怒濤の展開の連続で、佳境に入った物語は一気にヒートアップしてきました。

魔王の正体はともかく、目的が見えたことは大きいです。ずっと喉元に詰まっていた懸案がクリアされて、やっと私は魔王に共感を持てるようになりましたから。事件の規模も大きくなり、これまでみたいな弱者相手のせこい犯罪ではありません。魔王という大仰な名前に相応しい、遠大な計画です。

何より、ここに至って、主人公が初めて主人公らしさを見せてくれたことが嬉しい! ただの火事場泥棒だと侮っていた京介君が、まさか火事場においてその真価を発揮するようになるとは~。這い蹲りながらもハルを救いに行くシーンは超格好良かったですよ! 今までずっと気に食わない主人公だったですけど、これで棒引きって感じかな。やれば出来る子なんだねっ。

魔王は魔王で、最後まで魔王であり続けてくれたことを評価したい。「──騙されてはいけません!!!」のハルの叫びには魂が震えましたよ。私も涙を浮かべつつ、完全にその場の雰囲気に飲み込まれちゃっていただけに、ハルの一声で全身に電流が走ったような衝撃。あそこまでの感動のお膳立てをしておきながら、それをあっさり反故に出来てしまう魔王はなんたるピカロか…! 魔王の真の恐ろしさを思い知りました。しかし、最後まで潔くない魔王の美学は、感動の涙と引き替えにするだけの価値がある! それでこそ魔王って感じですよ! 武士道精神を尊ぶ我が国であるまじき発言ですが、私は潔くない人間が大好きなんで!!


ともかく、第5章でそれまでの印象からガラリと変わりましたね。「なんだかなぁ」という釈然としない燻った気持ちが晴れ、どっぷりとハマリ込んでしまった自分。「60点のつもりだったけど、最後が抜群に良かったから75点付けようかな~」と、流れるエンドロールを見ながらレビューの点数に思いを巡らせていました。

が、エンドロール後のエピローグ、最終章を見ることで再びその考えは改められることに。総てが終わったと油断していた頃に起こるまさかの一波乱。予想だにしない展開に狼狽している最中、信じられない悲劇が…。

最後、ハルを守るため、心に修羅を宿し、自ら悪に仕立て上げようとする京介には涙がこらえきれませんでしたよ。痛々しい彼の言葉1つ1つが鋭利な刃になって深く胸に突き刺さります…。この悪は、ただの悪ではない! その決意に溢れ出る涙が一層激しさを増しました。まさか彼にこのような侠気があったなんて…。本当に感動しました。降参です。地獄に堕ちろとか思っていてごめんなさい…。


凡作→佳作→傑作と終盤駆け足にランクアップしていったG線上の魔王。それは同時に主人公京介に対する印象の変化でもありました。最後の最後までプレイしなければ、この作品はとても評価しきれませんね。

本当はシナリオにはいろいろ口出ししたい部分があります。支離滅裂とまでは言いませんが、メインルートに一貫性がなかったのは問題ですし、サブヒロインのルートは、困難に打ち勝ったヒロインに感化された主人公が情に絆され改心するというワンパターン。決して完璧だと褒められたシナリオではなかったように思えます。

しかし、キャラクターの不快感や、シナリオの違和感を踏まえた上でも、惹き付けられる物語の面白さは本物。第5章までは微妙だったとはいえ、不思議と途中で投げ出したい気分には陥りませんでした。やっぱりこれはるーすぼーいさんのシナリオの力。多少の不満を吹き飛ばせてしまえる面白さと感動がありましたよ。ま、最後にあれだけ泣かされちゃったらね。

失礼ながら、有葉さんの絵は作風に合っていないんじゃないかと…。なんでこの手の作品で絵が萌え系なのでしょうか。途中で見慣れるかな~とも思っていましたが、結局最後まで違和感が残りました。男性キャラがキーになっている作品なのに、京介、魔王、権三、みんな見た目がイケてないのは残念。悪っていうのはルックスも大事ですよ。

堀部や橋本に立ち絵がないのも不満だなぁ。背景の手抜きもひどい。描き込みが全然足りず、まるで10年前のエロゲのよう。シナリオがこれだけ頑張ってるんですから、もっと他も頑張れ。

ヒューマンドラマと標榜されている理由がわかりました。確かにこの作品に登場するキャラクターはすごく“人間らしい”。外面的な部分だけでなく、人間の持つ醜さだったり、脆さだったり、普通なら描写を避けるメンタルな部分を突っ込んで描いている。極力、綺麗なところだけを見せようとするエロゲの中では異質だと言えるほど。

私は長所も短所も全部見せてくれる方が好き。さすがに全部が全部をさらけ出されても困りますけど、こういった“人間らしさ”は魅力の1つですね。

「京介くんの苦しみも、哀しみも、なにひとつ知ろうとしないで、ただ優しくていい人だって決めつけてたんだね」
「京介くんを知ろうとする努力を怠って、勝手にいい解釈をして自分だけ楽にしてたんだね」


これは主人公ではなく、とあるヒロインのセリフですが、総てのキャラクターに言えることだと思います。

G線上の魔王で使用されている曲は、クラシックのアレンジ曲。元の曲のイメージがあるせいか、あまりBGMが場面に適していなかったような気がします…。でも、「エリーゼのために」のアレンジはメチャ格好良かったですよ。ほとんど原曲無視ですけど。

究極といっていい純愛作品でしたが、萌えがどうのこうのという作品でもないんで…。どのヒロインに萌えたかというと意外に思い浮かばない。強いて挙げるなら宇佐美ハルですが、“幼い頃の約束”に重度のアレルギーを持つ私には、その陳腐な理由だけが受け付けられませんでした。仕方がないとはいえ、もっと他に理由なかったの?
2008年6月16日