EVE
new generation
メーカー〔角川書店〕 発売日2006年8月31日 ※一般作品


菅野EVEに感動、打越EVEに感心
ガンダムはファーストしか認めないという人がいるように、EVEも菅野さんの手掛けた初代burst errorしか認めないと豪語する人は数多い。存在自体が否定的な目で見られてしまう“EVEの続編”を手掛けるのは、もはや火中の栗を拾うに等しい行為なのですが、それをあのinfinityシリーズを代表作に持つ打越鋼太郎さんがやってのけたのだから驚き。Ever17を強く人に薦められて、いつか私も打越さんの作品をやってみたいと常日頃思っていただけに、その本懐がEVEで遂げられるというのは願ってもないことです。


さて、そんな打越版EVEの印象ですが、正直なところ、あまりEVEらしさは表れていなかったように思えます。burst errorに出てくる登場人物、事件、舞台、いずれも関連性が薄く、今回のnew generationではほとんど触れられていない始末。“burst errorを知っている人間なら思わずニヤリとするシーン”というのもありませんでした。桂木弥生、氷室恭子、甲野本部長といった人気キャラの面々が、ほんの顔見せ程度のお情け出演でストーリーに密接に絡んでこなかったってのは、今作における最大の不満だと言ってもいいぐらいですよ。

シナリオ面でも、序盤の大きな山場である日銀襲撃事件がちっとも盛り上がらなかったことで、不信感を強めてしまう。白昼堂々、2台の装甲車が窓ガラスをぶち破って突入し、銀行内を武装グループが占拠するという超ド派手な大事件でありながら、演出面の拙さから緊迫感が悲しいほど伝わってこない…。

その後、事件の真相を解明していく過程の中で、ヒロインの乃依とアルトは「双子の姉妹」であることが判明。ミステリ・サスペンスにおける双子の入れ替わりトリックに辟易としている私は、刹那、嫌な予感が走りましたが、それが案の定。「あの時の乃依は実はアルトの方だったんだ!」なんて白々しい話になってきたので、急速にプレイへの意欲が失われましたね(事実、ここで私は1度投げました)。まぁ、今振り返ると、早とちりも甚だしくて、自分の見識のなさを恥じ入るばかりなんですが…。


そう、物事はそんな簡単な話じゃなかったのです。日銀襲撃事件は足掛かりに過ぎなくて、本題じゃない。乃依とアルトが「多重身体」であるという驚愕の事実が語られ、一連の事件の背後関係・真の目的が朧気に見え始めてからは、ゲームの盛り上がりが一気に加速していく。EVEである以上、クローンがストーリーの中核に絡んでくるのはわかっていましたが、そこを終着点にしてしまうのではなくて、その「多重身体」という新たな概念を加えていたのが素晴らしいのです。二重人格とは似て非なるこの現象は、幼児期の間に自我の芽生えを制御することで、2人の身体にそれぞれ2人の人格を与えると言うもの。この設定が物語を一層奥深く、複雑化させています。

辻褄の合わない事象が次から次へと起こり、プレイヤーは惑わされる一方。カルト的な思想や、SF・オカルトを匂わす妄言を投げかけられることで混乱に拍車が掛かり、頭の中で必死に事実関係を整理していても、また平然と「あり得ないこと」を突きつけられてしまいますから、本当にもう何が何やら…。展開は二転三転し、予測は二度三度裏切られ、まったく先が読めない。特に終盤においては、逆転逆転また逆転といった感じで、忙しなくどんでん返しが待ち受けていました。ロスタイムに突入してからも、5~6点ゴールが入った感覚。私はその都度、右へ左へ操られるがままで、まんまと術中です。さぞかし打越さんにとって都合の良いプレイヤーだったことでしょうね…。

賞賛に値するのは、ただ翻弄させるだけでなく、総てのクエスチョンを作中で理路整然と“種明かし”していたこと。最初の何気ない言動が、後に強力な意味を持つ伏線であり、緻密に計算されたものであったことに気付く。どんなに目を凝らしても関連性の見いだせなかった突飛な事象の数々を、これだけ綺麗な一本線に繋げてしまえる打越さんの構成力には感心せざるを得ません。トリックが巧みだったとか、そんなミクロな話ではなく、物語全体として精巧な芸術作品でした。純粋なストーリーの完成度としては、もうburst errorを越えているんじゃないでしょうか? 少なくとも私はそう思う。


菅野さんは辻褄を無視してでも強引に感動へ持って行くタイプで、複雑に縺れた糸を最後は力任せに千切ってしまう人だったのに対し、打越さんは最後まで整合性を保って、複雑に縺れた糸を優しく丁寧に解していく印象。菅野さんは最後自分だけ1人でイって、こっちをイカせてくれないことが多いけど、打越さんはちゃんとカタルシスというかエクスタシーに導いてくれる

まるで菅野さんから打越さんに心変わりしたような物言いですが、別にそんなことはないですよ? 整合性を重視するかしないかは人それぞれ。今回のEVEだって、整合性にこだわっていたからこそ、派手さや刺激に欠けたことは否めません。アクションシーンも質量共にしょんぼりなので、胸躍るようなワクワク感やドキドキ感がなく、ハードボイルドな趣や、エンターテイメント性は残念ながら低い。この辺はburst errorはおろか、TFA(ADAM)にも劣っていましたね~。

そして何より、ロマンスの欠如が痛恨。色恋沙汰を語るイベントが一切皆無なんです…。乃依とアルトは年齢的なものから恋愛対象となるキャラではなく、せいぜい花火大会で浴衣姿が見られる程度。それも一瞬で終了。桂木弥生や氷室恭子は、上述した通り出番そのものがほとんどありません。好きで好きで好きで好きで堪らない弥生がせっかく登場しているというのに、色っぽい話の1つも聞けないなんてイジメに近いよ…。氷室恭子も悲惨。なんのために登場したの、彼女?


こういうところを踏まえて考えると、やっぱり今回のは「EVEらしさ」がなかったし、EVEじゃない方が高評価を得たんじゃないかと思う。でもまぁ、今更そんな話はどうでもいい。不満はありつつも、私はこのnew generationを心の底から楽しめたことは事実ですし、打越鋼太郎さんというシナリオライターを思いっきり気に入ってしまいました。機会があれば、是非Ever17の方もやってみます。必ず。

橋本タカシさんは、あのPiaキャロット3の原画家さんですね。勿論、キャラはみんな綺麗で可愛い。

EVEの代名詞であるマルチサイトシステムが、最大限活用されていた点も見逃せません。単一の視点では見えない真実を、異なる視点から見せることで暴いてしまうのがこのシステムの従来の使用法ですが、そこを叙述トリックで逆手に取り、プレイヤーにミスリードさせていたテクニックは素晴らしいとしか言いようがない。ええ、まんまと引っかかりましたよ、私は。

旧き床しきコマンド総当たり方式。しかし、総当たりに纏わるストレスを軽減させるため、○は考える、□は調べる、△は話すとそれぞれボタンに行動が割り振られており、方向キーと組み合わせることで即座にコマンドを入力できるので多少やりやすい。もう少しレスポンスを良くして欲しかったですけど。

それともう1つ苦言を呈すなら、「考える」「調べる」は性質的に似ていたので、どちらか1つに絞って欲しかった。片方は「触る」にでもすれば良かったんじゃないかと。真面目な事件の中での無意味な行動・遊びもEVEの楽しみの1つでしたので、「触る」というコマンドの方がいろいろ楽しめたように思えます。打越さんは、そういうふざけた感じが苦手そうですけど。

「萌え」が全然意識されていない作品ですからねぇ。該当者なしで。桂木弥生は、私の人生の中で五指に入るフェイバリットヒロインだというのに…。

(注意・ネタバレを含んでいます) 伏線回収には1つ1つなるほどと感心させられたものの、「殺しのトリック」に関しては失望。“変声機とシリコンマスクを使って別人に成り代わった”というのは、明らかに推理モノとしてアンフェア。これがトリックとして許されると、もう推理の体を為しませんよ? 何故、ここだけ“らしくない反則技”を使ったのでしょうか? 不思議でなりません。そこまでして犯人を“アルト”にしようとした意味がわからないなぁ。フーダニットはさして重要な要素ではなかっただけに、変なところでケチがついてしまった感じですね…。勿体無い。
2006年10月29日