発売日 2008年3月28日
メーカー elf 

不自然なパンチラは不自然でした
いやしくもelf信者を自称しておきながら、この媚肉の香りをスルーしかけた大罪をお赦しください…。不信心で愚昧なるワタクシは、あの蒼穹に磔刑(たっけい)にされても文句の言えない立場ですけど、ここ数作の体たらくに加え、「媚肉」という如何にもな陵辱ワード、「ネトリネトラレ」という絶望ワードが揃う悪条件では、購入を躊躇してしまうのも詮無きことでして…。シナリオの土天冥海さんの過去を洗ってみても、見事に陵辱作品ばかりでしたからねぇ。

でも、1ヶ月遅れの後追い購入とはいえ、これは本当にやっておいて良かったと心から思う。何が良かったかはこれから追々説明して参りますが、なんといっても私が感激したのは、失われていたelfらしさを取り戻し、ものすごくelfの作品になっていたこと! 「ああ、俺は今、elfのゲームをしている!」というあの懐かしい感覚を、ありありと蘇らせてくれたのです!

このelf特有の空気、匂い、感触は他のメーカーの作品では決して味わえないもの。媚肉の香りにはふんだんにelfらしさ、ひいては原初的なエロゲの楽しさが詰まっていました。選択ミスをするとすぐにバッドエンド直行するなど、昔の野々村病院の人々を彷彿とさせる作りで、ゲームとは名ばかりの紙芝居ではなく、ちゃんと「アドベンチャーゲーム」として楽しめるようになっているのが好印象ですね~。

ストーリーに関しては、内容を説明するのが少々難しい。というのも、目的がハッキリしていないため、掴み所のないストーリーなんですよ。家庭教師として乙葉ちゃんを大学合格へ導くこと、恋人由紀との旅行資金を貯めることが大本の目的ですが、それが話の目的でないことは明らか。周りのヒロインと親密になるのを目的としたゲームでもありませんし、話の終着点が見えぬまま日々を過ごして行くことになります。

これだとなんだか退屈そうに思われるかもしれませんが、そんなことは全然ないです。裏表ありそうな複雑な人間関係の中、その内何か大変なことが起こるに違いないと強迫観念めいた予感があり、名状しがたい緊張感が常に張り詰めていることで、気の休まるときがない。先の展開がまるで読めない暗中模索のストーリーに、こちらはハラハラさせられっ放しなんですよ!

そして、ラストで明かされた真相には仰天。簡単に言うと、この屋敷での生活は、総てある人物のシナリオによって進められていたわけ。これが驚くほど巧緻な計画でして、私はまんまと騙されてしまいました。「怪しいのは薄々気付いていた!」と強がる気力もなく、素直に全面降伏でございます。まさかあの行動もあのセリフも総て計算によるものだったとは、チンプイチンプイパパイヤポンとしか言いようがないっ! 恐ろしいのは、自分(プレイヤー)の行動までもが「計算のうち」だったってことですよ。自分の考え、自分の意志で行動していたつもりが、実は他人の術中によるものだったなんて、まさしく傀儡の気分。事実を突きつけられたときの薄ら寒さは、そうそう体感できるものじゃありません!

ちなみに、クリア後はその黒幕側に視点を移した「媚肉の○○」というサイドストーリーが楽しめます。いわばネタ晴らしみたいなもので、如何にして人を欺き騙してきたのか、如何にして計画が遂行されてきたのか、如何にして主人公(プレイヤー)の心情をコントロールしてきたのかが、全部詳(つまび)らかに明かされている。本当に最初から最後まで計算ずくめだったのは感心します。この人なら、履歴書送るだけでゼーレに採用されるでしょうね。


シナリオと並んで、エッチシーンも大変秀逸でした。単純なエロさという面より、相手の情感がしっとりと伝わってくるような真に迫ったセックス。ただ男を喜ばせるだけの上辺のセリフは吐かないので、言葉の1つ1つに重みがありますよ。エッチシーンのテキストもシナリオの一部だと言えるほどですので、無闇に飛ばしたりすることなく、きっちり一言一句目を通してもらいたい。

あと、アニメーションの破壊力がすごいです。Tech Arts系が誇るテック@フルアニメーションと同種のアフターエフェクツを用いた技術でしょうが、両者のレベルは月とすっぽん。画質がDVDとYou Tubeぐらいの差がありますから。勿論、elfの方が上。トップクラスのCGクォリティのまま、流麗にグリグリ動く様には感動を覚えました。それも各キャラに1つ2つというケチな配分ではなく、1つのエッチシーンでは必ずアニメーションが盛り込まれているほどのが贅沢さ。Tech Artsさんが年月をかけて熟成させてきたものを、一足飛びであっさりと飛び越えてしまうなんて、elfがすごいのか、Tech Artsが情けないのか、どっちなんでしょうね。


さて、ここまで褒めっ放しで来ましたが、残念ながら本作には不満点も2つほどあります。

まずは由紀の扱い。ハッキリ言って、私は由紀というヒロインがメチャクチャ好きです。明るくて快活で健康的で健気で、ふて腐れたときの膨れっ面までもが実に愛らしく、何よりエロゲでは珍しい“気心の知れた恋人”というポジションなのが最高。通常のエロゲでは、恋仲になった時点でエンディングになる論外な作品が多く、交際以後も物語が続く作品であっても、描かれるのは付き合い始めのラブラブな時期だけ。ですから、こういった“気心の知れた恋人”というヒロインはほとんど見かけないんですよね…。私がパッと思い出せるのは、君望の速瀬水月ぐらいしかありませんし。

お互い気兼ねなく軽口が言い合える仲で、セックスが愛の発露ではなく、コミュニケーションの一環になっているような関係はやっぱり素晴らしい。「由紀はプチMだから少し冷たくする方が喜ぶ」といったように、お互いの良い部分も悪い部分も性癖も全部知り尽くした上で、それをまとめて愛せてしまえる間柄こそ、恋人として一番成熟した時期ではないでしょうか。

……話を戻しますが、そんな愛する由紀にまともなエンディングが用意されていなかったのが不満というわけ。確かに彼女には裏があり、普通一般の恋人ではなかった。騙され、欺かれていた部分もある。でも、真実を知って、私は嫌うどころかますます由紀のことが好きになってしまいましたし、彼女の愛ほど純粋な愛はないと思いました。由紀との愛を全うすることが最も美しい筋道であると私は強く思うだけに、彼女とのハッピーエンドが存在しない事実が悔しくて堪らない!!

媚肉の香りは基本的に一本道で、最後は“とある女性”と結ばれることでハッピーエンドとなります。私もその“とある女性”は好きだったので、彼女と添い遂げることに不服はないんですが、やっぱり由紀にだって救いは欲しかった。家庭教師をクビになり、2人でささやかな国内旅行をするバッドエンドが、私にとって最も心安まる結末になるなんて、あまりに悲しすぎる…。


もう1つの不満はやっぱり「寝取られ」。ネトリネトラレというタイトルで寝取られにクレームを付けるなんて、たこ焼きを注文しておきながら「タコが入っているぞ!」とクレームを付けるのに等しいのは承知していますが、後半怒濤の寝取られ輪姦シーンは正視で見られないほど悲惨なものでしたので、敢えて私はヤクザなクレーマーとなります!!

いくら彼女らに非があろうとも(ない人もいる)、あんなキモい豚野郎共に次々犯される残酷な鬼畜シーンを見せられるのは相当な精神的苦痛ですよ…。私ははらわたが煮えくり返る思いで、ソレスタルビーイング並みに武力介入したかった。松太郎、昭彦、隆司に寝取られるぐらいならまだいい。しかし、こんな有象無象のクズ連中に好きなようにやられることは絶対に我慢ならん! し、しかも、由紀が守ってきた……くそぉぉ、おのれぇぇぇぇ!!


まぁでも、そんなところも含めてelfらしさ。萌えに媚びることなく、流行りに媚びることなく、ユーザーに媚びることない往年のelfの雄姿を垣間見せてくれたことに、私は大きな喜びを感じていますよ。久々に「大人向け」のエロゲを堪能したって感じですしね。

エロゲは18歳以上が対象だとはいっても、少年少女のボーイミーツガールが大半を占めており、少年誌的な、あるいはライトノベル的な内容が好まれているのが実情。私自身、そういうのは大好きなんですが、媚肉の香りのような本来の姿ともいうべき大人向けのエロゲも、等しく評価を受けられるような世の中になって欲しいものです。

「キャラクターのためにストーリーがあるんじゃねぇ、ストーリーのためにキャラクターがいるんだ!!」と安西監督も仰っていたように、ヒロインありきじゃない、しっかりとした骨太のシナリオは読み応えあり。ただ、一本道なら一本道であるとしてそれとなく知らせて欲しい…。私は“とある女性”を最後に攻略しようと思い、最初はわざと突き放す選択肢を選んでいたのに、結局彼女とくっついちゃいましたからね。プレイヤーと主人公の気持ちが乖離してしまうのは宜しくない。

毛玉萌えの進藤由紀。恋人になるきっかけや動機なんて不純でいい。ドラマティックで運命的な出会いなんて、どうせ長続きしないんですから。
2008年5月4日