発売日 2010年12月16日
メーカー Alchemist 

ベアバト蜜月の記録
うみねこのなく頃にのPS3移植版。私はファン心理でうみねこがPS3にやってきたことに無邪気に大喜びしていましたが、よくよく考えると、これは原作ファンが購入する価値のあるものなのか疑問です。原作が出たのはつい最近のことで、懐かしんでプレイするような代物でもありませんし、移植に際してブラッシュアップされているとはいえ、ストーリー自体に一切手が加わっていないものを、まだ内容が完全に頭に入っている時期にもう一度プレイし直す必要があったのか実に微妙。「早すぎるリメイク」という複雑な立ち位置ゆえに、PS3版うみねこはその価値を難しくしているのです。

しかし! 私は敢えて赤き真実で断言する! PS3版うみねこは充分に価値があるものだと! それは“内容が頭に入っていても面白い”という作品自体の素晴らしさに由来することでもありますが、やはりボイス追加がもたらした功績は大であるからです。愛すべき戦人の、ベアトリーチェのセリフを音声で聴きながらプレイできるのは感無量! 本来なら、既にアニメで耳にしているボイスを、今更そこまでありがたがる必要はないはずなんですが、幸か不幸か、アニメはことごとく原作の名セリフをスルーしやがりましたので、その鬱憤を解消してくれているところに意義がある。つまり、アニメうみねこが駄作だったおかげで、このPS3版うみねこの価値が高まったということですね!


アニメでは、戦人への煽り文句がほとんど削られてしまったせいで、ベアトリーチェの底意地の悪さが全然表現できていませんでした。妙に大人しく無難なセリフにまとめられたベアトリーチェにはフラストレーション溜まりまくり。その点、PS3版では私が聴きたかったベアトリーチェの名セリフの数々が一切削られることなく、それら総てを大原さやかさんが見事に演じきってくださっている!

以前、Episode2のレビューで、ベアトリーチェを完璧に演じられる声優さんがこの世にいるのかと懐疑的な意見を述べましたけど、超ノリノリではっちゃけた演技をしている大原さやかさんの声を聞いて、その疑いはすぐに雲散霧消。「ほざくな、弟に殺されろよ、紗音ォンンンゥ、きっといい夢が見られるぜェエエエェエエエエエエエエェエエエェエッ!!!」 のセリフも、ちゃんと期待した通りのテンションで文句なしの発声でしたよ~。イッツパーフェクトッ!!

ベアトリーチェのお嬢様らしからぬ蓮っ葉で下品なヤンキー口調を、決して無理している風ではなく、自然な感じで演じられているのが本当に素晴らしいです。おかげで、ドSで性悪で陰険なベアトリーチェがとても憎たらしくて、こちらもムカムカ鬱陶しい最悪な気分にさせてもらいました(全部誉め言葉です)。ベアトリーチェをこよなく愛する私としては、その声がイメージに合わなかったら1円たりともお金を出したくありませんでしたが、大原さやかさんは充分対価を支払う価値のある声優さんだったと言えます。

他にも、絵羽役の伊藤美紀さんの演技力に脱帽。元々アニメでも光る演技を見せていましたけど、ゲームで更にその実力の高さを思い知ることに。大原さやかさん同様、置きに行った演技ではなく、感情を露わにするシーンでは、その通り演技を超えて感情丸出しになるから感心しきり。凄みのある声を出したかと思えば、秀吉と2人きりのときには思いっきり甘えた猫撫で声を出したり、それもやたらとリアルだったり、これぞプロの仕事って感じですよ。

ちなみに秀吉の声優さんは、不明瞭な棒読み口調で唯一不満を感じていた配役でしたが、ゲームでは驚くほど良くなっています。アニメで「全国ブルマ!」にしか聞こえなかったセリフも、ちゃんと「残酷ぶるなや!」に聞こえました。感動の場面なんだから、全国ブルマは拙いよね。

ベテラン勢に負けじと、若手の井上麻里奈さんも好演。Episode1の園芸倉庫での殺害場面で、半狂乱になった朱志香の慟哭はびびります。本気で悲鳴を上げているんじゃないかと思わせるほど真に迫っている! 井上麻里奈さんって、ただ顔がカワイイから使われているわけじゃないんですね~(当たり前だ)。これだけ見た目が良いのに実力もあるなんて無敵じゃないですかっ! エロゲの声優さんを見下すわけじゃないですけど、やっぱり表の声優は一枚も二枚も上手だなと感心せざるを得ないです。


音声だけでなく、PS3版で見違えたのは文字通りビジュアル面。まず大きく目立つ変更点としては、ビジュアルノベル形式から通常のウィンドウテキスト形式に変更されたこと。これはどちらが良いというわけではないものの、結構プレイの印象が変わります。原作はキャラ立ち絵とイメージ画だけで固有のイベントスチルは存在しなかったのですが、PS3版うみねこでは通常のAVGのようにイベントスチルが追加されているのもポイント。うみねこの名シーンが一枚絵で描かれるのは、原作ファンとして1つの喜びであり、PS3版の大きな見どころになりますね。

ただし、こちらはボイスほどの満足感が得られませんでした。量的にやや物足りなくて、もうチョット頑張って数を増やして欲しかったなと(立ち絵が膨大なせいもあるでしょうが…)。最初のEpisode1では実質5つのCGしか存在しませんからね。使われている場所もピントがずれているというか、「何故ここでCGを用意しない!?」「え、ここでCG使っちゃうの?」と、私の思惑と合致しなくて。枚数が限られているなら、ここぞという使い所をキチンと見極めて欲しかったなぁ。

でも、質的には不満はなく、江草天仁さんの絵はとても美麗でしたよ。HDサイズの高解像度CGであったのも印象を高めています。最後、戦人とベアトリーチェの抱擁CGにはゾクゾクしましたね! この美しいイベントスチルを見られただけでも、購入した価値があったというもの。


私はこれで、うみねこを原作・コミックス・アニメ・PS3の4つの媒体で体験したことになりますが、原作は当然、コミックスとPS3版もクォリティが高く、ファンの高すぎる要求を満たしてくれる納得の出来だったのが嬉しい。ダメなのはアニメだけ。今からうみねこを体験してみたいとお考えの新規のお客さんには、是非このPS3版をオススメしたいと思います。勿論、オリジナルをやってもらうのが一番ですけど、同人ソフトであること、絵が個性的であることで、一見さんには抵抗があるでしょうからね。

うみねこは選択肢のない一本道のデジタルノベルでありながら、謎解きを通して、作者とのインタラクティブなゲーム性があるのが特徴。戦人とベアトリーチェの対立は、いわば読者と作者のミステリ代理戦争。だから、戦人は読者の心情を汲み取って一緒に戦ってくれる頼もしい主人公ですし、ベアトリーチェはこちらの挑戦意欲を煽ってくれる憎らしくも愛おしい好敵手。私はこれが最高のカタチではまったからこそ、これだけ感情移入してうみねこに熱中できたんですね。

中盤以降、若くてカワイイ女の娘がどんどん増えて華やいでくるうみねこでも、私は初期のオジサンオバサンばかりの地味な面子だった頃が好き。というか、蔵臼夫妻・秀吉夫妻・留弗夫夫妻がそれぞれ理想の夫婦像って感じで、すごく憧れるんですよね~。

妻として夫の才覚を誰よりも信じ、その支えになろうと懸命な夏妃。勝ち気な性格ながら夫にベタ惚れで、年甲斐もなくラブラブな絵羽。ビジネスの良き相談役であり、時に夫を引っ張ってくれる逞しい霧江。妻の本分はそれぞれ異なれど、みんな夫への愛情に満ちているのが美しいですし、夫もまた妻の愛情に応えているのが立派。

中でも、やっぱり私は夏妃さんがいいなぁ! 夫を立てながらも夫に依存することなく、気丈で気位が高くて気品に溢れているのが素敵すぎます。ベアトリーチェベアトリーチェ煩い私ですけど、もしベアトリーチェがいなかったら、夏妃夏妃煩かったと思います。
2011年1月24日