終末少女幻想アリスマチック
メーカー〔キャラメルBOX〕 発売日2006年10月27日


費用対効果○ 時間対効果×
始める前から、設定が難しくてややこしいと聞かされてはいましたが、なるほど、これは難しくてややこしい

隣接する多重次元世界の融合で、世界が異空間化してしまう「散花蝕(ペトレーション)」という災害によって世界は崩壊の危機に瀕している。事態を食い止めるためには、超古代遺物(アーティファクト)によって構成された偏倚立方体(ダイス)を使って世界の量子を固定する必要があり、高い精神高揚力(アプリフティアン)持つ資格者たちの精神を仮想世界(プレロマ)へと投入(ダイヴ)させ、被験者同士の殺し合いによって生じるエネルギーをデミウルゴス・システムに入力(プログラム)しなくてはならない……みたいな。

主人公の蔵人は作中で「話がある程度の知能レベルを超えると、並(な)べて『お説教』と判断されて耳から耳に抜ける仕様になっているのさ、俺の耳は」と口にしていましたが、まさしく私もそんな気分でした。掻い摘んで説明すれば、目的もハッキリしていてわかりやすい話ではあるんですけど、難解な用語でわざとややこしくしようとしているから…。1つの物事を説明するのにも、わざと迂遠な表現を用いたり、聞いてもいない御託を並べて、なかなか話の本題や結論を語ろうとしない。せっかちな私は、何度も「要するに!?」とツッコミを入れていましたよ。

アリスマチックは、クトゥルー神話をベースとしており、そこに日本の神話を独自にミックスさせ、近未来SFの世界観の上でファンタジー要素を盛り込みつつ、伝奇・オカルトチックな一面も見せています。バトルでは古流剣術に傾倒しながら時代劇風味に。日常パートでは王道学園コメディを直走り、仕上げはエロゲ的萌え要素をトッピング。

自分で説明していて何が何やらわからないですが、実際こんな感じなんです。ライターさんは非常に博識な方で、数学・量子論・心理学・宗教などの学術的アプローチにも深く、文系・理系両面に通ずる豊富な知識。その多分野に渡る深い造詣には本当に恐れ入る……のですが、その自らの知識をひけらかすがために、テキストが非常に衒学的(げんがくてき)なものになってしまっているのは功罪あると言えるでしょうねぇ~。

功罪の「罪」の部分は、今更説明するまでもなく「わかりにくい」「いやらしい」「眠くなる」といったところ。逆に「功」の部分はというと、いろいろ賢くなれたことかな? 文中に出てくる難解な用語にはその都度ウィンドウが出てきてくれて、丁寧な解説が添えられている。剣術関連の知識など、とてもお勉強になりました。このシステムのおかげで、私のように頭が残念な子でも、途中で引っ掛かりを憶えることなく、スムーズに物語に没頭できたのは大きいですよ。とても親切な機能であり、アリスマチックにはなくてはならない機能。

もう1つ「功」を挙げるとすれば、ペダンティックであるがゆえに洒落た言い回しが楽しめたところ。夏の陽射しを儚く透かした骨灰磁器(ボーンチャイナ)が、小夜音の一言で、まるで砕け散った人の身体(ボーン)のように見える。こんなオシャレ~な言い回しが満載ですから、思わずニヤリとしてしまうこと請け合いです。いやらしいいやらしいと思いつつも、その妙に気取った言い回しが病み付きに。すっかり嵌ってしまいました。気障なセリフに嫌悪を感じても、繰り返し聞いていれば、段々それが心地好くなってくるもの。


お次にストーリーについてですが、これだけ大掛かりな設定と、理知的なテキストで彩られながら、肝心のお話そのものは至って普通だったんですね…。可もなければ不可もない、山場もオチも至って普通な出来。ストーリーの流れを箇条書きしていけば、これ、ものすごいシンプルな話ですよ。それをなんだか“すごそう”なものに見せかけているのは、ライターさんの精一杯の虚飾……もとい、修飾のおかげ。まぁ、お化粧上手なのも立派な才能ですけど。

「要するに!?」とツッコミを入れたいと私は冒頭に述べましたが、これを「要するに」で語っちゃうと、なんとも味気ない凡作になっていたことでしょう。説明過多で蘊蓄と御託の多い作品でしたが、その説明による蘊蓄と御託が本体みたいなところもあるので、その辺を楽しいと感じられなければ、話にならないかも知れません。

でも、蘊蓄と御託が本体でありながら、整合性は割とアバウト。残滓(レムナント)に体当たりをすると世界の向こう側、違う世界に飛ばされると言っておきながら、そのルールをあっさり無視したり、終盤に登場する「ひかり」が何故主人公の元に現れたのか、その理由が釈然としないなど、明らかにおかしいと感じる場面が幾つかありました。細かなところまでギチギチに設定が敷き詰められているだけに、てっきり矛盾や不合理は許さない人だと思っていましたが、そういうわけでもないんでしょうか?


懸案だった戦闘シーンに関しては、思ったより好印象。昨今のFateに触発されたエロゲのバトルシーンにはいい加減ウンザリしていましたけど、アリスマチックは方向性が違っていただけになかなか楽しめました。

「仮想空間で殺し合い」だと、何でもアリのド派手なバトルを連想しがちな設定なのに、その内容は意外と地味で、現実を逸脱しないストイックなバトル。愛刀を携え、個々の流派に則った技で勝負する立ち回りは剣豪小説さながらです。ゆえに超常的必殺技はありませんし、死の間際に潜在パワーを解放とか、そういった少年バトル的な要素は排除されている(重い道着を脱いでパワーアップ!はありましたけど…)。激しい剣戟を繰り広げながらも、決着は一瞬でつくというのが快感です! “一撃必殺”という剣の本来持っている最大の魅力を充分堪能させてくれます。主人公であっても、簡単にあっけなく斬殺されてしまうのが堪らない~。脳天をバッサリと両断され、血飛沫が噴き出すナイス演出。仮想世界の出来事とはいえ、これは興奮しました。

ただし、このバトルには悪いところもあります。戦いの合間にお互いがベラベラ軽口を叩くから、どうしても必死さが伝わってきません。さっきまで殺し合いをしていたのに、現実世界に戻った途端、いつも通り馴れ合い始めるのも興醒め。結局、身内での戦いって真剣味がないんですよね。勝った負けたが大きな要因ではないバトルは、単なるお遊戯に過ぎないでしょう。大体、世界を救うために身内同士で戦わなきゃならないって設定自体、私は感覚的に馴染めない!(全否定)

まぁ、身内同士の戦いだけではなく、残滓(レムナント)とのバトルも平行してやっていましたけど、所詮こいつらは顔すらないやられ役。数だけ多い雑魚なので、バトルとしての面白さはやっぱりありませんでした。


最後に恋愛要素ですが、これは「鈍感を装う主人公と積極的にアプローチするヒロイン」といういつもの構図で、私的にはほとんど見所なし。蔵人は顔あり声有り個性ありの主人公で、その男気と、戦いでの振る舞いが格好良く、日夜剣の修行に明け暮れる努力家なところも好感が持てる人物だったのですが、恋愛に関してはてんでヘタレなくせに口だけは達者。だから、そこだけが好きになれなくて…。ヒロインの方は、魅力的な人が揃っていたと思いますが(他人事)。


総括。終末少女幻想アリスマチック、とても丁寧な作りで充分面白かったです。最初は鼻にかけた言い回しが鼻につきましたけど、それも個性だと思えばすぐに慣れました。興味があれば、やってみてつまらないということはないと思います。ただ、プレイに何十時間も要した割には、終わった後の満足感に乏しい…。これだけの大作だと、程々の面白さでは納得できないんですよ。この作品に何十時間も費やすぐらいなら、他のエロゲをやっておけば良かったという気分になってしまいますねぇ。

いつものようにボケーっとエロゲしていては途中で話について行けなくなりそうだったため、キャラクターの音声を敢えてOFFにして、テキストに集中してプレイしていました。さすがにそこまで気合い入れなくてもいい内容でしたが、音声を聞いていたらプレイ時間が更に長くなっていたことは間違いないので、結果的に正しい判断だったような。

主題歌のSINCLAIRはかなり好きです。章ごとに見せられるオープニングムービーも、スキップしたりせず、毎回主題歌を聴いていました。accolade~胸に描く~♪ 朱~き血潮の薔薇♪

“コンシューマー移植する時のための切り取り線”がうっすら透けて見えている。つまり、エロは簡単に取り外し可能な、どうでもいい存在ってことですね。はいはい、好きなだけコンシューマー移植して、アニメ化してください。

登場シーンで、いきなり背後にバラを背負って登場した月瀬小夜音。場違い甚だしい深紅のゴスロリドレスを身に纏っている時点で、「浮世離れした非常識人」というイメージなのですが、実はそうではないところが彼女の長所。小夜音はドレスが場にそぐわないこと、周りから浮いている「コスプレ女」であることをハッキリ自覚しているのです。その上で、「でも、自分には似合うから」という自負の元にドレスを着こなしている。素晴らしいですね。大した違いじゃないよとお思いかも知れませんが、大した違いです。

お嬢様キャラ特有の高飛車な一面も彼女には見られず、今までとは一風変わったキャラだったことは確か。「私の顔は高慢などではなく、単に自信の表れ」と彼女自身豪語するように、高慢ではないが自信家というバランス感が非常に良かった。自信家というと、どうしても偉そうだの自惚れてるだの悪いイメージで語られてしまいますが、決してそうではないということを、彼女を通して理解してもらえると嬉しい。
2006年11月20日