聲の形映画評(ネタバレ控えめ)

障害者を利用して感動を誘引するのは、感動ポルノだと指摘する声があります。先天性な聴覚障害を持つ少女を題材にした聲の形は、感動ポルノの一種かもしれません。しかし、聲の形の主題はあくまで主人公石田将也の成長物語。幼い頃に取り返しのつかない過ちを犯してしまった少年が、彼女のために自分は何ができるか問い続け、仲間との繋がりを通して、再び彼女の笑顔を取り戻そうとする。そこには感動ポルノと呼ばれる下卑たお涙頂戴の赴きはないのです。

そのことと私が映画開始2分で早くも号泣し始めていたことは別の話で(笑) 聲の形は、序盤の小学生時代の話が一番強烈ですので、ここを涙なしで乗り切るのは到底不可能…! 無知と好奇から耳が聞こえない西宮硝子に面白おかしくちょっかいを出す将也。ちょっかいが次第に嫌がらせとなり、イジメへとエスカレート。不当なイジメを受ける当の硝子が、怒ることもなければ泣き伏すこともなく、笑顔を浮かべてただ謝るだけなのが本当に切なくて心が苦しくて…。

小学生時代の話はコミックス1巻相当なんですけど、ここだけでもものすごい密度なんですよね。聲の形が映画化される上で最大の懸案だったのは、この密度の濃い全7巻のストーリーを、どうやって1本の映画に落とし込むのかということでした。原作ファンからすれば、どこも削られたくないシーンばかりで、納得できうる取捨選択ができるとは思えなかったですから…。

まず作品の根幹部分であった映画製作の話がバッサリカット。自主製作の映画を通して、バラバラになった小学生時代の仲間たちが集う物語なのに、その映画製作自体をなくしてしまうのは、かなり思い切ったデシジョン。でも、私も原作を読んでいて「この映画作りの話いる?」と思うところが少しありましたので、これは割と英断だったと思います。結果的に、映画製作の話がなくてもストーリーの整合性は保たれていましたし。

映画製作のくだりを丸々カットしてもまだ尺には収まりきらないので、今度はサブキャラクターたちのエピソードをぶった切り。サブはめっきり影が薄くなり、特に真柴智に関しては、過去のイジメ経験からの将也への怒りが丸ごと消え失せていましたので、「こいつ何のために出てきたの?」的などうでもいいキャラに成り下がっていたという(笑)

しかし、限られた上映時間の配分を考えたら、これも仕方ないことだと思います。他のキャラの出番を極力抑えて、将也と硝子の主役2人に焦点を合わせた判断は決して悪くない……のですが、個人的にとても思い入れがある植野直花の扱いがおざなりだったことは、やっぱり無念さを隠しきれない~~

ネコミミとしっぽがキュートな植野直花。彼女のキャラを知らない人に簡単に説明するとしたら、クソみたいな性格の女。硝子のイジメに率先して加わって、高校生になっても反省の色はなく、憔悴する硝子に暴言を吐いて、殴るわ蹴るわの狼藉を振るう悪魔のような女ですから! まったく、救えないクズですよ!! ……だけど、私は好き(笑)

「見破ったよ、西宮。本当のあんたはショーガイを武器にして周りに『性格のいい私』を演出しているハラグロ。ハラグロ!! ハラグロ!! ハラグロ!!」
「石田、西宮なんかにダマされんなよ。私は知ってる。男はあーゆーカワイソーで無口な女に弱いって」

西宮硝子という少女は、とても清く正しく善良な存在。一方で、あまりに清く正しく善良な存在だと描きすぎている節もあります。障害者を美化しすぎて天使扱いをすることには危険性がありますし、直花のような硝子の清らかさに疑義を挟む存在は必要だったと思うんです。役目として貧乏くじを引かされて可哀想なのですが、だからこそ私は彼女を尊重してあげたくて。

もう1つ自分が直花が好きな理由は、硝子を一番対等な存在として見ているのは直花だったから。他の仲間たちは硝子に対して優しく接しますが、そこにはどうしても彼女を下に見た憐憫が混じっている。障害者だから不憫で可哀想だと。それは将也でさえ例外でないかもしれません。

でも、直花にとって硝子は恋敵。密かに想い続けている将也を彼女に取られてしまうんじゃないかという危惧があり、硝子に強い敵愾心を持っている。嫉妬という感情でぶつかる直花は、それだけ硝子が自分にとってのライバルで、対等以上の存在であると認めている証拠。彼女の中に潜在的な差別意識はないはずなんです。ただちょっと性格がクソ悪いだけなんです!

上記のセリフは、そんな彼女の人となりが伝わってくる名シーンだったんですけど、映画ではこのシーンが一切なかったという…(泣) こうなると映画を見ていた人は、植野直花のことを本当にただの嫌な奴という印象で終わってしまうんじゃないかと心配で心配で。最後はツンデレっぽく誤魔化していましたが、あれで嫌な奴の印象が拭い去れたかどうか(笑) 嫌な奴にも嫌な奴なりの魅力があるってことを、どうか原作未読の方にも知ってもらいたいなぁと。

これだけサブキャラクターのエピソードを大胆に削った上でも、やっぱりまだ話を詰め込みきれていない感はあって、描写の不足と場面転換の強引さは最後まで感じていました。1つ1つの場面(出来事)を点で羅列している箇条書きのようなシナリオなので、漠然とストーリーを追っているだけの人だと、結局何の話をしたいのかよくわからないかも…? 視聴者が行間を読むか原作を読むかしないと、その真意はなかなか伝わり切れていなかった気がします。

それを差し引いてもやっぱりこの映画はオススメですが。将也の後悔、苦悩、成長といった一番肝要な部分はちゃんと丁寧に描かれていましたから。彼がどんな償いをしても一生許せないって人も中にはいるでしょうが、小学生というのは総じて物事の分別がついていない愚かな生き物。その過ちを生涯の枷にはしてあげたくないですし、取り返しがつかないことでも取り返そうとする彼の気概は肯定してあげたいものです。

そういう私も、将也についてはど~~しても許せない点が1つありまして。それは硝子の「好き」という告白に気付かなかったこと!! 聾唖者特有の不明瞭な発音で聴き取りづらかった事情はあるにしても、そこはニュアンスで察しろよ! 顔を真っ赤にしながら叫んでいるんだから、シチュエーション的にわかれよ!! 「月」なわけねーだろ!! 私にとって、難聴ヒロインは愛すべき存在であっても、難聴主人公は度し難い存在であるようです(笑)

小説 映画 聲の形(上) (KCデラックス ラノベ文庫)

著者/訳者:川崎 美羽 吉田 玲子

出版社:講談社( 2016-09-16 )

定価:

Amazon価格:¥ 724

コミック ( 240 ページ )

ISBN-10 : 4063930386

ISBN-13 : 9784063930382


ABOUTこの記事をかいた人

なでしこやまとでは、総ての作品が浅生大和の主観に基づいてレビューされています。私個人の主義主張&趣味嗜好が評価に大きく関与し、客観性を無視した極めて独善的なレビューとなっております。そのことを充分踏まえた上でご覧いただけるよう、よろしくお願い致します。
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  1. どうも~。私も直花、大好きです(笑)

    CMか何かで聞いたやーしょー君の声がイメージよりもだいぶナヨ過ぎて聞こえたので(CMの1シーンがまずかったのかも?)、ちょっと躊躇してまだ見に行っていないのですが...。
    別に中の人は変な人じゃない...てゆうかすごい実力者さんなんですけどね。
    ナイーブさは必要ですけど、も少し男っぽいイメージだったので...。
    本編作中はまた違うんですかね?私が見たのは「“浴衣の後姿”に呼びかけるとこ」らしかったのですが。

    てゆーか、そすか~、直花さんの見せ場減らされてますか~。
    個人的な印象で、登場人物はみんなそれぞれある程度漫画らしくデフォルメされてる中で直花だけやたら生々しくて若干キモチワルかったんですよね(笑)。
    良いところも悪いところも素直過ぎストレート過ぎで愛おしいです。

    やっぱ尺の制限は影響出ちゃいますよね。
    「君の名は。」を見に行ったときの予告トレーラーで“浴衣の硝子の後姿”を見て「あ、ホントに全部やるんだ。大丈夫?」て思いましたし。
    まぁ、TVアニメだとテンポ良くすると1クールでも少し余りそうですし、じっくりやったらだらけそうだし、なんかムズカシイですね。

    ガチなキャスティングで出来るなら実写で見てみたかったんですけど、昨今の実写化作品を見てると残念な結果しか想像出来ないのでアニメ化が最良なんですかねえ。

    監督が基本的に丁寧に作る人ってイメージがありますし、浅生さんの「一番肝要な部分はちゃんと丁寧に描かれていました」て記述にも興味を取り戻せてきたので近々見に行ってみようと思います。

    あの硝子の告白を的確に汲み取ってしまうと、ちょっとイケメンに寄り過ぎな気がしてなんかイヤかも(笑)
    まあ、ドンカンニブチンでもそれはそれで殺意が湧くんですけどね。

    • 将也の声は入野自由さんで、我らが「言の葉の庭」のタカオ君の声ですし、そんなに抵抗を感じることはないと思いますよ。私はイメージが違うという印象は一切感じなかったですし、“浴衣の後姿”を呼び止める叫びも熱くて感動しました。

      私はライブビューイングで舞台挨拶も拝見したのですが、入野さんは真面目さだけでなく場を盛り上げるトークもお上手で、人間的にも魅力ある人だなと感じました。といいつつ、今の今まで入野自由さんをずっと「いりのじゆう」さんと読んでいたことをお詫びします(笑) 「いりのみゆ」さんだったのか…。

      >(直花)良いところも悪いところも素直過ぎストレート過ぎで愛おしい
      そうなんですよ~。障害者と向き合う上で、どうしても人は体面を気にして取り繕った建前で喋ろうとする。その中で、あれだけ本音でぶつかることのできる直花はどれほどすごいことか。もし硝子以外の登場人物が全員直花だったら見るに堪えない作品になりますが、1人は絶対必要なんです!!

      >ガチなキャスティングで出来るなら実写で見てみたかった
      実写版だとキャスティング誰だろう~。山崎賢人と広瀬すずとか? え、四月は君の嘘と被っているって? 

      山崎賢人さんは最近の少女漫画系ラブコメ映画の主役を片っ端からやっているので、案外ありそう(聲の形は少年漫画ですが)。聲の形が始まる前の告知で流れていた「一週間フレンズ。」の主役も山崎賢人さんだったなぁ。別にキャスティングに不満はないですけど、髪型が何故かすごい変だったので、納得いかなかったです。

      >硝子の告白を的確に汲み取ってしまうと、ちょっとイケメンに寄り過ぎ
      硝子の意志が正確に伝わらないにしても、(え、好きって言った!? い、いや、そんなわけないよな…でも…)ぐらいの葛藤がないとなぁ。その可能性もまったく頭に昇らないというのは、ちょっと残念です。

      でも、作者は「硝子への異性としての愛情は将也にはない」とはっきり明言されていますので、それなら全然意識していなくても仕方ないのか…。まぁ、私は例え作者が否定しようとも、聲の形はラブコメとして見ていますけどね!

    • こんばんは。やっと観て参りました。

      いやぁ、将也の声は全く杞憂でしたね。たまたま見た宣伝の1シーンの台詞が驚愕して上擦った感じで呼びかけた声で、それがナヨく聞こえただけだったようです(笑)
      てゆーか入野さんて、よく見たら例の靴の少年以外にもハイキューのスガさんとか熱いメンズの声で聞いてた方だったのでホントに余計な心配だったんですね。
      あ、私もネットで調べてみるまでジユウだと思ってました。てゆうかむしろ初見で「みゆ」とか読めちゃった人が、もしいたらちょっと...(笑)

      内容はたしかにかなりカットされていていましたが、キレイに纏まっていて、でも必死に頑張ったけど纏まりきらなかった...て部分もあって、ムズカシイですね。
      台詞もかなり厳選してチョイスされていたようなところも見受けられて、凄い努力の跡が伝わってきたのですが、尺の不足は否めませんでした。
      あ、真柴くんは設定をバッサリいかれてましたけど、代わりに橋で将也にちゃんと罵ってもらえていたのでよかったんじゃないかと(笑)

      直花はエピソード自体はたしかに減ってましたけど、声と動きが付いてより凶悪に、より生々しくなっていてヤバかったですね。やっぱり一番好きかも。
      川井はもとから嫌いでしたが、声と動きが付いてより気持ち悪さが際立って...やっぱり一番嫌いですね(笑)

      「聲の形」の登場人物は悪役っぽいポジションのキャラでも100%は責められない、仕方ない部分とか同情できたり共感したり、応援できる部分が必ずあって、原作ではそうゆう多面性を大事にして描いていたと思うのですが、映画版だとその辺りがちょっと弱くなっちゃってましたね。
      特に硝子ママは物語的にももう少し出して欲しかった。

      まあ、全ての不満は尺不足に起因するんですけどね。
      映画としてはふつーに面白かったです。
      一番最後のシーンの広がり感や迫力は劇場版アニメだからこそのモノだと思いますし、必要なシーンをカットしない完全版がぜひ見てみたいと思いました。
      作ってくんないですかねぇ?ディレクターズカット的な感じで2時間増量とか。

      あ、そうそう、改めて告白シーン見ましたけど、将也がまだ硝子(や他人全員)を人間として向き合えていない段階なんでカンベンしてやって欲しいと思いました。
      後で病院から脱けだして橋の上で頑張るんでどうかそれでチャラにしてやってください(笑)

      漫画原作の実写版のキャストってホントに片寄りますよねえ。
      広瀬すずはなんとなくゴリ押し感があってちょっと好きになれないんですよねえ。「四月は~」のかをりちゃんも予告見てちょっとイラっとしたし(笑)
      でも、もし直花役に広瀬すずでガチで熱演してくれたら確実にホレますけどね。

    • deathmetaboさんもご覧になりましたか。感想的には私と似通っていそうですね。映画の出来の良さに感動する一方で、原作を知っているだけに不足分が気になってしまうという。これは原作を読んでいる人は等しく持つ感想かも。

      >必死に頑張ったけど纏まりきらなかった
      どこを切り取っても、結局「あれがない」「これがない」と気になっていたでしょう。ベストな解答がない中で、ベターな答えを見せてくれたと思いますが、必死に頑張っても纏まりきらないなら、やっぱり前後編でやってくれた方が…。

      >悪役っぽいポジションのキャラでも100%は責められない、仕方ない部分
      可愛さと儚さと尊さを持つ硝子は絶対的な善の象徴だけに、彼女を害する存在は完全なる悪としてレッテルが貼られてしまう。原作だと、そうならないように脇役のエピソードを丁寧に放り込んで共感を獲得していましたが、それが削られている劇場版はどうしても嫌な面が目立ってしまいました。

      硝子ママの出番が少ないという不満もわかります(特典冊子では硝子ママが主役でしたが)。物語的に重要ですし、個人的にも硝子と直花の次に好きなキャラだっただけに、もう少しなんとかしてほしかった思いが。特に障害を持つ子供を産んだことで夫の親族から責められるシーンは強烈なシーンだったので、カットされていたのはもったいない…。

      小学生時代の教師と、夫の親族は完全なる悪のレッテルを貼ってもいいですよね(笑)

      >必要なシーンをカットしない完全版がぜひ見てみたい
      ディレクターズカットとして映画版を増量するのもありですが、どうせ手間暇掛けるなら1クールでTVアニメ化してほしいですね。劇場版→TVアニメの逆輸入って今まで例あるのかな?(Wake Up,Girls!みたいなケースは除く) 幸いにも、映画は大ヒットを記録しているようですし、TVシリーズでの再アニメかを京アニさん考えてほしいな。

      >漫画原作の実写版のキャストってホントに片寄ります
      将也を山崎賢人が演じて聲の形実写映画化するんじゃないかと言っていたら、まさか仗助を山崎賢人が演じてジョジョ実写映画化するなんて! 広瀬すずもイメージが全然違うちはやふるの千早を演じていて微妙でしたが、この山崎賢人の無神経なごり押しはそれ以上! 往年の剛力彩芽に匹敵する逸材ですよ!!

      本当に剛力彩芽の反省がちっとも活かされていない…。原作ファンも演者も不幸になるような配役はやめましょうって。

  2. 昨日見てきました。原作は読み切りだけ読んでいて連載は読んでいない状態。
    小学校の担任をみて「あ~これは悪者扱いされるだろうな~けど面倒くさい生徒任された大人なんてこんなもんだよな~俺だってこうするかもしれないな~」なんて思ってたんですが映画見たあとに原作の1巻読んだら結構な鬼畜で吹きました(笑)

    大人達が変に達観してたり成熟しすぎておらずトラブルに対して頭を下げてやり過ごしたり対症療法的な対応くらいしかできない所はリアルで良かったと思います。

    真柴智くんがイジメ被害者だとは思いませんでしたね。てっきり上辺だけの道徳を振りかざすだけのイケメンサイコパスだと思ってました。ていうか絶対お前中学の頃いじめる側だったろ?とか思ってた(笑)

    • 原作だと、あの教師は嫌な部分しか見えてこないですね~。小学生時代の1巻でも嫌な奴でしたが、再会した5巻でももっと嫌な奴で(笑) 擁護する箇所がちっともないぐらい。

      >真柴智くんがイジメ被害者だとは思いませんでした
      そこが真柴のキャラで一番重要なところなのに、イケメンサイコパスと誤解されるとは哀れな(笑) 原作だと、後半はむしろ長束より真柴のが存在感発しているぐらいですが、その根底の設定がなくなっているので、何も波風を立たせないモブキャラのような立ち位置でした。

      真柴の分、映画では長束君が役割に恵まれていた感じ。最後トイレでのセリフはすっごい感動しちゃいましたし。あそこも、本来なら真柴との会話がメインだったのに。

      ただ、将也が最初に心を開いた親友として、長束君にはこれぐらいの見せ場があって然るべきでした。ここは映画が原作を超えた部分ともいえるでしょうか。長束君のような、見た目は格好悪いけど心根はイケメンというキャラは心を熱くさせてくれます。