映画「ネクスト・ゴール! 世界最弱のサッカー代表チーム 0対31からの挑戦」レビュー

「事実は小説よりも奇なり」という格言をこれほど強く体感したことはありません。10年間で1点も取れていないチームが初勝利を目指す? 予選3週間前に就任した監督でチーム改革? 1試合31失点したGKが現役復帰? オネェキャラが試合で大活躍? これがフィクションなら「もっと現実味ある脚本を考えろ!」と一蹴していたことでしょう。

しかしこの映画は、現実の米領サモア代表の軌跡をカメラで追い続けた純然たるドキュメンタリー。2002年ワールドカップのオセアニア予選でオーストラリア相手に0-31という史上最大得点差負けの屈辱を喫し、未だ勝利を経験したことが一度もないこの小国は、何年もFIFAランキング最下位を独走する世界最弱チーム。そこにトーマス・ロンゲンというオランダ出身の監督がやってきて、チームの歴史的初勝利を目指すという物語です。

白髪で初老のロンゲン監督は、年齢を感じさせないバイタリティで自ら選手と一緒になって激しい練習にも身を投じる熱血漢。選手を激しく叱咤する一方で、ジョークを飛ばして場を和ませるユーモラスな一面を持ち、独自の文化を持つ米領サモアの人たちと同じ目線で溶け込んでは、選手たちと家族のように接する高潔な人物です。

その選手たちにも個性的な面々が揃っていて、試合前にメイクを欠かさないオネェ系選手(サモアでは第三の性と言われる)という濃いキャラまで混じっていたり、本当に漫画の設定みたいなんですよ。

映画を観る前の私には2つの誤解がありました。1つは、FIFAランキング最下位国なんて、どうせ草サッカーの延長線上で、真面目にサッカーをやっている連中ではないと思っていたこと。

確かに彼らは皆、他に仕事を抱えているアマチュア選手でしたが、サッカーに対する情熱と誇りは決して引けを取らない。果てしなく裾野が広いサッカーの最底辺でも、ここまで真摯にサッカーに向き合っていたとは驚きでした。彼らが遊び半分でやっていないことは、その鍛え抜かれた肉体を見れば一目瞭然でしたね。全員ムッキムキなんですもん(笑)

もう1つの誤解は、監督のチーム強化策について。私は型破りな監督が奇策を弄して、実力の劣るチームを勝たせるものだと思っていましたが、そうではないんですね。ロンゲン監督が取った強化の手段はすごく正攻法。国外からチームの手本となる選手を1人補強して、あとは戦術の徹底と、基礎を見つめ直した反復練習。

これはかつて日本が辿ってきた道筋と同じ。日本が今やワールドカップ常連国となり得たのも、海外から招聘した優秀な監督と選手の技術を吸収してきた歴史があるからこそ。まさにサッカーで強くなるための王道中の王道で、米領サモア代表はチーム強化を図っていったのです。
そして始まった2014ブラジルワールドカップ・オセアニア予選。初戦はトンガ戦。ロンゲン監督によって鍛えられた米領サモアの選手たちは、見違えるように成長し、ちゃんとサッカー選手の動きになっていたのがすごい。まさかのスタメンに抜擢されたオネェキャラも、普通に好守備を見せており、この短期間でよくぞここまで逞しくなったと感動に打ち震えていました。

エースのラミン・オットが念願の初ゴールを決めた瞬間には、早くも堪えきれずに大粒の涙がっ…! 続けざまのゴールで2点をリードし、歴史的初勝利が俄に現実味を帯び始めますが、持久力に致命的弱点を抱える米領サモア代表(前半でスタミナが切れる選手が6~7人もいる)は、後半1点を返され尚も防戦一方。史実を知らない私は本当にサッカー観戦をしている気分で、「なんとか凌ぎきってくれ!」とただただ祈るばかり…。

ゴール前の混戦からトンガ代表のシュートが無人のゴールに転がり、あわや同点かと目を覆う大ピンチには、オネェキャラが立ち塞がって意地のクリア! ここでお前が活躍するのか~~!

そして訪れる歓喜の瞬間。歴史的初勝利を掴み取り、まるでワールドカップ優勝を成し遂げたかのようにピッチで喜びを爆発させる米領サモア代表のメンバーたち。その眩いばかりの感動の光景に、ただただ涙し続ける私。

次なる第2戦を1-1で引き分けて、1勝1分けで迎えたサモア代表との予選最終戦。不勉強ゆえ私は存じませんでしたが、米領サモアとサモアは別々のチームだったのね。代表戦で実現した「クラシコ」で、勝った方が予選突破を勝ち取るというまさに漫画展開

意地とプライドをぶつけ合いながら、両者一歩も譲らず0-0で鎬を削る展開。試合終了間際にチャンスを掴んだのは米領サモア! GKをかわして華麗にゴール隅にシュートを流し込んだ! ……と思いきや、無情にもゴールポストに弾かれてゴールならず。逆にそのボールを繋いでカウンターに打って出たサモア代表に決勝ゴールを決められ、米領サモアは万事休したのでした…。

最後の最後までフィクションのようなストーリー。ドラマティックと呼ぶにはあまりに出来すぎた現実。こんな奇跡的な出来事が、再現VTRではなく、ドキュメンタリー映像で追われていたことが既に奇跡ですよ。おかげで最高のドキュメンタリー映画に仕上がっていました。比類なき感動をありがとう!

ニッキーというGKに特別感情移入していた私は、彼がシュートをセーブしただけでぼろっぼろ泣けていましたね(笑) 「31失点した世界最低のGK」の烙印を押され、その不名誉をずっとトラウマに抱えながら、サッカーゲームでオーストラリアを倒して溜飲を下げていた涙ぐましい彼が、汚名返上の機会を前に退いていた現役を復帰、米領サモアの初勝利に見事貢献しただなんて、こんな良く出来た話ありませんよ!!

最近、アニメ「魔法科高校の劣等生」に出てくる司波深雪という妹キャラを見て、「こんな現実離れした気持ち悪い妹、存在するか!」と唾棄していましたけど、米領サモアの奇跡を目の当たりにした今、彼女のような妹も現実に存在するんじゃないかと思えてきました(笑) 世の中、嘘みたいな本当ってあり得るんですね~。

ネクスト・ゴール! 世界最弱のサッカー代表チーム 0対31からの挑戦(字幕版)

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なでしこやまとでは、総ての作品が浅生大和の主観に基づいてレビューされています。私個人の主義主張&趣味嗜好が評価に大きく関与し、客観性を無視した極めて独善的なレビューとなっております。そのことを充分踏まえた上でご覧いただけるよう、よろしくお願い致します。
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  1. 近くに上映してる映画館がないんでアマゾン経由で見ました
    サッカー版スクールウォーズですね
    分かっちゃいるのに僕も泣けました

    ドキュメンタリーだけど組み立ても上手いんだと思います
    おもいっきし感情移入させて試合に持ってく構成がうまい

    プロモーションをミスってんじゃないかな
    サイト見てもいかにもB級映画的な臭いをプンプンさせてるんで
    不マジメな選手をマジメな監督が率いると誤解があってもおかしくない
    中身がシリアスで感動的だから相当違和感ある

    •  ブランドンさん
      まさか上映館が東京と大阪の2館しかなかったとは。2週間限定公開ですし、せっかくいい映画なのにあまり人目に触れない作品になってしまいそうで残念…。映画館での客入りは上々だったんですが。

      プロモーションが良くないというのは、丁度同じような意見を話し合っていました。ネクスト・ゴール!だと原題のNEXT GOAL WINSと意味も違ってきますし、日本のはタイトルロゴからしてコメディっぽいんですよねぇ。海外版のだと雰囲気にしっくりくるんですから、もうこのままで良かった。私の愛するニッキーが主役っぽいし(笑)