空が灰色だから書評

なんでこんな漫画が描けるんでしょうか。作者には畏敬を通り越して畏怖の念を感じずにいられない。硬軟取り混ぜた様々なジャンルによる1話読み切り型オムニバスストーリーは、10代の少女を中心としたナーバスで“上手くいかない”人間模様が克明に描かれており、「心がざわつく思春期コミック」という煽りが実に的確にその性格を表しています。

ご都合主義から見放されたシビアな現実と奇妙さが同居した世界観は、必然的に報われない不幸な結末になりがちで、その都度私の心はがっつり抉られる。決してフィクションの中の出来事とは言い切れない身に摘まされる話が多く、言いようのない不安感が我が身に押し寄せてくるんです。

これが全編ネガティブな話であれば、「はいはい、どうせまた報われないんでしょ」とある程度こちらも距離を置いて見ることが可能なんですが、空灰のすごいのは鬱展開の一本槍ではなく、萌え、ラブコメ、ギャグ、不条理、狂気、感動とバラエティに富んだ七色のジャンルを駆使してくるところ。鬱話に備えていたら一転ラブコメでハッピーエンドだったりもするので、話の最後の最後まで展開が読めないんですよねー。

私のように、常に先々の展開を予測しながら物語を楽しむ(嫌な)タイプの読者ほどハマりやすい。ストレート狙いでタイミングを計れば、見透かしたようなチェンジアップで空振りさせられ、外角の変化球に意識を向ければ、インハイを剛速球で突かれて心臓ばくばく。この緩急自在の投球術こそ空灰の真骨頂

第7話(1巻)の「奴を見てる私を奴が見てる」とか、ことごとくこちらの読みを外されてお手上げ状態。

ストーカーされている1人の女子高生の話でしたが、絶対彼女の自意識過剰で、ストーカーしているのは逆に彼女の方に違いないと私は確信していたんですよ。ところが、男はマジもんのストーカーで、女の被害妄想と思われた出来事も全部真実! 潔くストーカー行為を認めて告白してきた彼に対しても、最初の宣言通り右ラリアットを食らわせて撃退すると、「ストーカーいばいたったー」と無邪気に喜ぶ彼女。

その壮絶なオチの衝撃は勿論、僅か12ページの中でラブコメ→狂気→ギャグ→萌えと転々とジャンルが変化していくストーリーに私は翻弄されるばかり。日常→狂気→ギャグ→萌え→感動と変遷した第57話(5巻)「マルラマルシーマルー」といい、作者からは才能しか感じない!

「どこがマジカルだよ。フィジカルにもほどがあるだろ!」
「ちょっと心傾いてるじゃねえか」
「これで良しとしてラッピングできたお前の判断力に平伏すわ!」

地味にツッコミのセンスも素晴らしかったりするので、ギャグ漫画家としての才能も感じるんですよね~。ホント、多彩なジャンルを手掛けられる多才な作者です。

ツンデレを手の平返しと切り捨てた「信じていた」
多数派の身勝手な普遍性を描く「少女の異常な普通」
全関西人が泣いた「別に大丈夫やけどな」
ファッションキチガイVSリアルキチガイ「ただ、ひとりでも仲間がほしい」
友人への侮辱に怒りを爆発させた「世界一我侭な私から世界一ブスなお前に」
尊敬するアネゴの知りたくなかった現実「名乗る名もない」
サイコと見せかけた純愛……と見せかけたサイコ「さいこうのプレゼント」。

等々、印象的な話をあげれば枚挙に暇がありません。よくもまぁ、こんな話を毎週毎週思いつくものです。ネタ切れによる失速感もなく、最後まで傑作揃いだったのはまさに奇跡。最終話(5巻)「歩み」もこれぞ空灰のラストを飾るに相応しいといえる、最強に後味の悪い話でしたからねぇ。ああ、こんな残酷な終わり方ひどすぎるっ!

1番面白かったのはどれかというと難しいのですが、敢えて選ぶなら表題作でもある第3話(1巻)「空が灰色だから手をつなごう」でしょうか。シングルマザーがなけなしのお金をはたいて購入した娘へのプレゼント。最後の1ページをめくるのは怖かったなぁ…。恐る恐るめくった瞬間、一気に涙が溢れ出ましたね。涙ってこんなに一瞬で飛び出るものかと自分でも引くほど泣いていました。

これだけ憂鬱な話が多いのに、何度も読み返したくなる不思議な中毒性。でも、繰り返し読むたびに感じ方が変わってきたり、新たに気付かされる発見があったり。1つ1つの中身がどこまでも濃密で奥深い。生涯忘れられぬ漫画の1つとなりそうです。

余談ですが、「『灰色の空だから』ってあります?」と訊ねた私の間違いを一切訂正せずに「ああ、こちらですよ」と案内してくれた店員さんありがとうございました。

空が灰色だから 1 (少年チャンピオン・コミックス)

著者/訳者:阿部 共実

出版社:秋田書店( 2012-03-08 )

定価:

Amazon価格:¥ 453

コミック ( 159 ページ )

ISBN-10 : 425321715X

ISBN-13 : 9784253217156


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なでしこやまとでは、総ての作品が浅生大和の主観に基づいてレビューされています。私個人の主義主張&趣味嗜好が評価に大きく関与し、客観性を無視した極めて独善的なレビューとなっております。そのことを充分踏まえた上でご覧いただけるよう、よろしくお願い致します。