推しが武道館いってくれたら死ぬ 書評

これまでのアイドルアニメの多くでは、意図的にアイドルファンの存在は避けられてきました。アイドル作品においてリアルなアイドルファン像は不必要なのかと自問自答があった中で、アイドルファンが主役としてフォーカスされている本書を読み、やはりアイドルという題材にはリアルなファン描写は必須であるのだと確信を深めました! この先、アイドル作品を手掛けようとする者たちは、全員この本を教科書にしてほしい!

アイドル作品にはアイドルオタクの存在が必要と主張すると、「俺はアイドルが好きなのであって、アイドルオタクが好きなわけではない!」とすぐに反論されそうですが、いやいやいや! そのアイドルをより魅力的に描くために必要なんですよ! アイドルオタクそのものに価値はなくても、アイドルオタクを通してアイドルの良さが伝わることもあるのです! その点を、ゆっくり順序立てて説明していきましょう。

まずアイドルオタクという連中は、常人にはまったく理解不能の熱量でアイドルに入れ込んでいます。主人公のえりぴよも、女性ながらChamJam(チャムジャム)という地下アイドルを追いかける古参オタで、不人気メンの市井舞菜を一心不乱に推しまくり、稼いだ金は総て舞菜に注ぎ込むというガチ勢。握手券目当てにCD大量買いは当たり前で、人気投票で舞菜を1位に押し上げようとしたときには、自らの臓器を売って金策に走ろうとした狂気の女です(笑)

でも、そんなえりぴよのオタ活を見ていると、「彼女をここまで駆り立てるChamJamとはなんなのか?」「彼女をここまで惹き付ける舞菜とはなんなのか?」という疑問が自然と生まれてくるわけです。引き気味にアイドルオタクの生態を観察していたつもりが、気付けば彼女の視線の先にあるアイドルへと興味の対象が移るわけですね。

興味を持ってアイドルを深く知ろうとすると、顔の区別すらつかなかった十把一絡げのアイドルたちから、「個性」というものが見えてきます。すると、アイドルの良さが少しずつ理解できるようになってきて、最初は意味不明だったアイドルオタクどもの言動が、不覚にも共感できてしまうようになるのです…!

例えば、くまささんという別の古参オタがいるのですが、彼はリーダーの五十嵐れおを推していて、れおがガールズフェスタというファッションショーに出演することになったときも、オシャレ女子たちが集まる完全アウェイの会場に駆けつけていました。この時点では、ただの気持ち悪いオタクという認識でしかありません。

しかし、本職のモデルに囲まれて気後れしていたれおにとって、自分のために会場までファンが駆けつけてくれたことは確実に励ましとなりました。ただそこにいるだけで、れおを勇気付けることができたくまささん。れおはそんな彼に向かって、固定レス(特定のファンに対するアピール)で感謝を示したのが実に感動的で!!(笑) この瞬間、「これはくまささんがれおにハマるのもわかるわ~」と自分の中で共感が芽生えたんですね~。

アイドルファンを通してアイドルの良さが見えてくるというのはまさにこういうこと。嫌悪→嘲笑→興味→理解→共感という気持ちの変遷があって、気付いたら自分も一緒の視線で同じアイドルを応援しているっているってことですよ! 現に2年前までまったくアイドルなんかに興味なかった私が、急にi☆Risを好きになり始めたのも、同様の流れがあったから(最初の嫌悪と嘲笑はなかったですが!)。アイドルにハマるきっかけとして、アイドルファンの影響を受けるというのは、極めてポピュラーな入り口なんだと思います。

なんにせよ、アイドルの仕事はファンを魅了することである事実は揺るぎませんので、その対象を描写せずしてアイドル作品は語れないはずですよ。特に私はアイドルの魅力は“プロ意識”だと思っていて、そのプロ意識を測る物差しが“ファン対応”だと思っていますから、アイドルオタクが出てくれないことには、真のアイドルの魅力が測れないんです!

バトル漫画だって、主人公の強さを知るには倒す敵がいなきゃわかりっこないでしょ? めっちゃ筋骨隆々ですごい必殺技を持っていたとしても、誰とも戦わなかったら本当にそいつが強いのかわかりようがない! アイドルもまったく同じ構造で、めっちゃ可愛くてすごいパフォーマンス力を持っていたとしても、魅了すべきファンがいなけりゃ、本当にそのアイドルが魅力的なのかわからない! 私はものすごく当たり前の理屈を話していると思うんですけど!!

倒す敵がいないバトル漫画が存在しないように、食べる人がいないグルメ漫画が存在しないように、やっぱりアイドルという題材はファンの存在ありき。それも名もなき雑魚をいくら倒しても主人公の強さはやっぱり伝わってこないですから、アイドルのファンもモブみたいな適当な描き方じゃダメ。アイドルの魅力を正確に伝えたいのなら、ちゃんと読者(視聴者)の共感が得られるようなキャラが立っている悪者……もとい、オタクを描いてもらわないと!

この漫画はアイドルオタクのみならず、アイドルへの理解を深める意味で、アイドルに興味を持たない人にも読んでもらいたいですね。「推しが武道館いってくれたら死ぬ」というタイトルは、アイドルオタクの気持ち悪さが滲み出た良タイトルですが、きっとこの漫画を読み進めるうちに共感を憶えるはず。例え漫画の中の世界であっても、ChamJamが武道館に行ってくれたら私は泣きそうですから。



今回、ほとんど私のアイドル論に終始していて、全然作品の紹介になっていなくてすみません…。内容については、パウンだーさんのブログの方で詳しく紹介されていますから、どうぞそちらをご覧ください! 斯く言う私も、この紹介記事を読んで、本を買ってきて、今この感想を書いたところですから(笑) パウンだーさん、素晴らしい作品を紹介してくれてありがとうございます!

推しが武道館いってくれたら死ぬ(1) (RYU COMICS)

推しが武道館いってくれたら死ぬ(1) (RYU COMICS)

カテゴリ:Kindle版

発売日:2016-02-29


ABOUTこの記事をかいた人

なでしこやまとでは、総ての作品が浅生大和の主観に基づいてレビューされています。私個人の主義主張&趣味嗜好が評価に大きく関与し、客観性を無視した極めて独善的なレビューとなっております。そのことを充分踏まえた上でご覧いただけるよう、よろしくお願い致します。
この記事のトラックバックURL
  1. あ、浅生さんが読んでる!と思ったら、めちゃくちゃアイドルオタクについて力説してて笑ったw
    流石、現在進行形アイドルオタクな浅生さん。
    とりあえず、気に入ってもらえたようで何より。

    >アイドルオタクを通してアイドルの良さが伝わることもある
    ああ、なんか納得できます。
    実際、ChamJamで魅力を感じるのは、
    作中でレギュラーキャラのオタクが付いてるれお・空音・舞菜ですから。
    れおはまさに、くまささんへの固定レスでがっちり掴まされましたもんね。
    あと、完全に突き抜けてるえりぴよはともかく、
    くまささんレベルはいそうなリアル感があるのもいいですね。

    アイドルにハマったことがない私ですが、
    いろいろと共感まではいかなくても、何かわかるな~的なのが結構あったりして面白かった。
    好きなジャンルは違えど、好きなモノに対する気持ちはそう変わらないもんですねw

    • 「推しが武道館いってくれたら死ぬ」はタイトルだけどっかで見て気になっていましたが、パウンだーさんのブログで興味を抑えきれずに買いに行きました。最初は感想はパウンだーさんのブログのコメント欄に書くつもりでしたけど、あまりの長文になりすぎたので、結局自分のとこでアップすることに(笑)

      この漫画はまさに私が読みたかったリアルなアイドルモノですよ。アイドルのリアルというと、すぐ枕営業とかそっちのドロドロした方を連想する人が多いですけど、そうじゃなくて、ファンと向き合うアイドル本来の仕事ぶりを描いてほしかったということ。女性アイドルを応援してるファンが全員女子とか、そんなのはやっぱりダメですよ!

      >ChamJamで魅力を感じるのは、作中でレギュラーキャラのオタクが付いてるれお・空音・舞菜
      アイドルの魅力を最も雄弁に語るのは、ファンですからねー。挫折を知るれおの頑張りとか聞いていると、絶対に好きになってしまう。眞妃は見た目だけで好きですけど(笑)

      >何かわかるな~的なのが結構あったりして面白かった
      私もディープなアイドルオタじゃないので「あるある」という共感はなかったですけど、でも気持ち的には共感したくなる。これだけ熱中できたら楽しそうだな~って感じで。

      この漫画、絵柄は全然ギャグじゃないのに、笑えるポイントが多いのもいいですね。普通、ギャグシーンは多少絵柄を崩してコミカルに描くものなのに、常にシリアスな雰囲気のままなので、そのギャップがまた面白い。えりぴよが「臓器売るのが間に合わなくて…」と呟いているシーンも、ジョークなのかマジなのか区別つきにくい(笑)