ダンジョン飯書評

RPGは架空世界での生活を疑似体験することを主目的としながら、人間の生活に最も密接な関わりがある食欲・睡眠欲・性欲は意識的に排除され続けてきました。まぁ、性欲は一部のゲームにおいてがっつりカバーされているんですが、食欲・睡眠欲としっかり向き合ったRPGというのは私が知る限りありませんね。

そのRPGのファンタジー世界に、「食欲」という概念を取り入れたのがダンジョン飯食欲というたった一つのリアリティが加えられただけで、こんなにもファンタジー世界の見方が激変するとは正直驚き。斜に構えたリアル視点でファンタジー世界を皮肉っているわけではなく、王道ファンタジーとしての世界観は堅持したままでありながら、ここまで現実味を帯びた内容に仕上がるのはすごい。

主人公たち冒険者がモンスターを狩って食すのは、生きるため、栄養を摂取するためであって、他のグルメ漫画のような美食を追求したものとは性質が異なりますが、できることなら食事は美味しくいただきたいというのが人間の本能。娯楽とは無縁の戦場において食の楽しみはより強烈であるはずで、極限状態におけるグルメへのこだわりというのは、また違った趣を感じられるものです。

私もRPGは幾つもやっていますけど、「モンスターを食べる」という発想は今まで皆無に等しかったので、出てくる料理は何もかもが新鮮。大サソリの水炊き、バジリスクのベーコン、マンドラゴラのオムレツ…。普通なら絶対に食べられそうにないモンスターを、様々な知恵と工夫で調理して、美味なるご馳走に変えてしまう。どんな食材でも調理次第で何とかなってしまうところに、人間の雑食性の凄みを感じますね(笑)

一番衝撃を受けたのは、動く鎧を食べる回でした。ドラゴンクエストでいうところの「さまようよろい」。こんなもん、どう考えたって食べられるはずがない! 食べようという考え自体がクレイジー! しかし、主人公のライオスは動く鎧の正体を冷静に分析し、甲冑の隙間に潜む貝類に似た軟体生物の存在を突き止めると、そいつを炒めて蒸して焼いて食べる。まさかこんな化け物まで食べることができてしまうなんて、ただただ脱帽ですよ!

モンスターは架空の存在ですから、当然どれもこの世には存在しないはずの食べ物。それでも、調理工程を細かく描写されていることで、なんとなくその料理の味が想像できてしまうのがすごい。誰も食べたことがないモンスターの味を、しっかりと読者に届ける説得力、それこそがこの漫画の何よりの素晴らしさですね。

登場人物は、主人公の影が若干薄いのが気になりつつも(センシが主人公でいいと思う)、みんなキャラが立っていました。特に私は女エルフのマルシルが好き。モンスターを食べることに激しい拒否反応を持っていたのに、なんだかんだで口にしてみると意外と美味しく食べられることに複雑な感情を見せるのがカワイイ(笑) こういうのはツンデレじゃなくて、なんて言うんでしょうね。

「このマンガがすごい!2016」1位獲得がきっかけで読んでみた漫画でしたが、その高評価も納得の内容。「続きが気になる!」という類の作品ではなかったものの、よくこんなことを考えつくなという作者の発想力はまさに天才の域。これからはゲームの方のRPGでも、食事や睡眠といった生理現象(ついでに便意も)を取り入れていくと、より面白いものが出来上がりそう? モンスターを倒して得られるのは、経験値でもなければ、ゴールドでもなければ、素材でもなく、食料なんだと。

ABOUT

なでしこやまとでは、総ての作品が浅生大和の主観に基づいてレビューされています。私個人の主義主張&趣味嗜好が評価に大きく関与し、客観性を無視した極めて独善的なレビューとなっております。そのことを充分踏まえた上でご覧いただけるよう、よろしくお願い致します。
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  1. 便意も一部のゲームでがっつりピックアップされていると思います
    (姫騎士とかそういうのから目を逸らしながら)

    人気作品ではありますが、その裏では最近のラノベシーンの流行である
    「冴えない俺が異世界で最強チートのハーレム状態な件について」
    的な作品と表層的なイメージがかぶり、難色を示す人もいそうです。
    (実際一部の書店ではファンタジー特集なんて銘打たれて混ぜられる事も)

    というかラノベは何かがヒットすると必ず下手な換骨奪胎に走るので
    この作品も遠からず誰かがパク、もといリマスターするのかもしれません。
    (もうやってるかも、という可能性を否定できないほど食いつくのが早い業界でもあり)

    漫画が人気を博するとアニメ化するのが業界の常ですが、
    獲物を食うために殺して実際食うというコトの流れは果たしてアニメに向くのか。
    世間は思いのほか「殺す(≠死ぬ)」という現象に対して厳しいですから。
    まぁアニメ化自体が良くも悪くもブームなので、何でもかんでもプラスにはならないのも現状ですけど。
    連載中にアニメがこけた時の失望感に引きずり込まれて失速し、終わっていく作品も多々ありましたし。

    • 新年あけましておめでとうございます。本年もよろしくお願い致します~。

      便意ってそっちのことですか(笑) 確かにそっちも一部ジャンルのゲームでカバーされていましたね。一部ジャンルのゲームはすごいなぁ。

      >(最近のラノベ)表層的なイメージがかぶり、難色を示す人もいそう
      それは私のことですね! 思いっきり同じようなイメージで見ていて、難色を示していましたよ…。「このマンガがすごい!」で大賞に選ばれなかったら、絶対手に取ることのない漫画だったでしょう。

      個人的にファンタジー系の作品が苦手なのは、作者が凝りに凝った脳内設定の世界観を、最初に嫌というほど説明されるからなんですが、ダンジョン飯は世界観の説明にはほぼノータッチだったところも好感が持てるところでした。

      >ラノベは何かがヒットすると必ず下手な換骨奪胎に走る
      ヒットしたジャンルにすかさず食いついて、2匹目のドジョウにありつこうとする抜け目なさは悪いことじゃないんですけど、「右向け右」で全員が一斉に同じ方向を向くから怖い。それが読者の需要を満たしているのであれば、何も申すことはありませんが。

      >獲物を食うために殺して実際食うというコトの流れは果たしてアニメに向くのか
      別に残虐な描写もないですし、倫理に反することは一切ないはずですが、食欲を満たすために殺すという生々しさは、確かにアニメとしては不向きであるかもしれませんね…。それに漫画だからこその面白さのような気もしますから、アニメで見たい作品かというと個人的にも微妙です。

  2. ダンジョンマスターというゲームがありますよ<食欲・睡眠欲としっかり向き合ったRPG
    作者もこれにヒントを得たんだと思います

    • すみません! 寡聞にして存じ上げませんでした……って、1987年のゲームですか! でも、本当にこれがダンジョン飯のルーツといえるゲームみたいですね。そんな昔にダンジョン飯の理念は芽生えていたのですか…。

  3. この作品も面白いんですが、この作者が以前に出している数冊の短編集も抜群に面白いのでお勧めしておきます
    個人的に気に入ったのが「竜の学校は山の上」という短編集に収録されてる表題作です
    日本で唯一存在する竜学部がある大学に進学した主人公が直面する竜という現代社会では持て余した存在の
    処遇と対処にまつわる騒動を描いた話が、面白おかしく笑えつつも現代社会の風刺になっていて考えさせられる
    部分もあり、色々な意味で稀有な作品でした
    その他の作品もナンセンスギャグあり、パロディあり、感動あり、SFあり、ファンタジーありで多岐に渡って
    様々な作品が掲載されていて面白いので興味があれば短編集の方も是非読んでみてください

    • 九井諒子さんって元々同人出身の漫画家さんで、これは同人誌を再編したものなんですか。言われてみれば納得というか、すごい同人誌的な世界観。偏執的ともいえる独自の世界観を持った同人誌を出しておられる方、結構いますからね!

      Amazonのレビューだけざっと読んでみてみましたが、押し並べて絶賛じゃないですか。「竜という現代社会では持て余した存在の処遇と対処にまつわる騒動」って、また込み入った設定を料理されますね。SFやファンタジーはあまり得意ではないのですが、私もダンジョン飯で作者に興味を持ったところでしたので、いずれ機会があればこっちの方にも手を出してみたいと思います~。