遊撃警艦パトベセル
~こちら首都圏上空青空署~
メーカー〔May-Be Soft〕 発売日2007年4月20日


抗えないシリアスの誘惑
「あかざさん原画でそろそろフツーの学園モノを!」の願い虚しく、やってきたのはまたまた風変わりなイロモノ系。今度は遊撃警艦ですって? 何それ? 興味沸かないなー。


な~んて軽んじた見方をしていましたけど、これ、メチャクチャ面白いじゃないっすかーー!! シナリオ箒星さんの実力は百も承知のつもりでいたものの、ここまで引き込まれるようなものは予想外。度肝を抜かれる大仕掛けな展開と、パロディを駆使した個々のキャラクターの軽妙なセリフ回し、それら大小のネタが見事に融合していて、豊饒な笑いを生み出している!

私はパロディに頼り切った笑いってあまり好きではありませんが、このように「基本」のしっかりしているコメディであれば、パロディが映えるんですね~。元ネタにピンとくる回数は少なくとも、ノリと勢いの良さで充分面白さは伝わってきましたから。


キャラクターの下敷きとなっていたのは、「涼宮ハルヒの憂鬱」。七瀬ヒカリは見た目・言動共に涼宮ハルヒ本人ですし、彼女を補佐するオペレーターの端深空と桃本みつなは、まんま長門有希と朝比奈みくる。ついでに、主人公はキョンならぬジュンだったり。イベント内でハルヒのコスプレをしたりするので、これは意識的に似せていると言って良いでしょう。

ハルヒ的であると言うことは、当然物語は七瀬ヒカリを中心に展開されています。傍若無人、自由闊達、唯我独尊な彼女の手に、首都圏の治安を守るために開発された巨大遊撃警艦「パトベセル」が、親バカ総監の一存によって委ねられてしまったことで、次々巻き起こる大事件・大騒動。

逃げまどう市民など意にも介さず、市街地のど真ん中へ着陸する巨大警艦! 急発進・急旋回によって周りのビルは損壊! 小悪党相手にも強力無比な主砲を躊躇なく発砲! 私怨混じりで本庁にもわざと誤射! 巨大な薬莢はそのまま地上に廃棄! 湯水のように費やされる市民の血税! いやぁ、初っ端からこの破天荒なスケール感は素敵すぎます~。

怪盗ロールの追跡、交通整理、振られた男の説得など、小さな事件にわざわざ油を注ぎ、余計に被害を拡大させているのは微笑ましいというか。怒り心頭の市民から、行く先々で罵声と苦情と空き缶を投げつけられても、反省どころか気に留めることすらなく、七瀬ヒカリは今日も縦横無尽に暴れまくる。彼女の非常識さは常に予測を上回るもので、「そこまでやるか!?」的な驚きの連続。そんな荒唐無稽な彼女の行動に振り回されるのが、もう楽しくて仕方ないのですよ。


途中までは、まったく非の付け所のない出来。「これはMay-Be Softというブランドの枠を超えた傑作になるかも!?」と、私も興奮の色を隠せない状態でした。

ところが、終盤のヒロインの個別ルートに入った途端、その昂ぶった気持ちは雲散霧消…。バカゲー一色だった空気が、シリアスなものに一変してしまったせいで瘧(おこり)が落ちてしまいまして。せっかく快調なコメディで突っ走ってきたのに、自らその足を止めちゃったんですよね…。

首都上空に突如現れた謎の黒船ヘカトンケイル。パトベセルと瓜二つな機体の目的とするものは一体何なのか? そこには裏に隠された深い陰謀が……。

こんな展開いりませんって。コメディ→シリアスの転調が功を奏することは勿論ありますけど、パトベセルはどう考えても不向きでしょう? 最初にあれだけメチャクチャやっていたバカゲーなのに、今更真面目なお話をされてもさ~。

事実、最後までコメディに徹していた怪盗ロール(巻子)のルートだけは素晴らしいんですよ。ロールのバカキャラを不用意に壊さなかったのは大正解。絶対ヒカリのルートなんかより、こっちの方が“空気読めてた”。上質なコメディを築いていながら、最後シリアスに色気出してぶち壊しになった作品は幾つも見てきましたが、まさかパトベセルもその仲間入りを果たしてしまうとはねぇ…。ホント、無念でなりません。


その無念をエロで晴らしてくれればまだ良かったんですが、こちらもなんだか微妙~な雰囲気。

確かに大事なところは外していなくて、抑えるべき所はちゃんと抑えています。各ヒロインの属性から「望まれるであろうプレイ」はしっかり盛り込まれている上、量的にも不足なし。サブキャラにもエッチシーンは2種用意されており、締めのハーレムルートだって存在しています。汁の量を調節できるシステムも個人的には重宝しました(どうせ多量で固定ですけど)。

ただ肝心の内容、特にシチュエーションの弱さが期待ハズレ感を強めてしまう。前作「メイドさんと大きな剣」は被りなしで多彩なエロシチュエーションを見せてくれていただけに、今回はかなり見劣りがしますよ。ヒロインが8人っていうのはやはり多すぎたのかも知れませんね。人数が増えれば増えるほど、中身は希釈されてしまうものですから、それが淡泊なプレイに繋がっていたように思えます。


総括。最後に悔やまれる部分があり、イメージを落としてしまったものの、序盤から中盤にかけての面白さは本物なので、やってみる価値は必ずあると思います。普段、May-Be Softの作品に馴染みのない人にも広く薦めたいものですね。

私の中では、箒星さんと、かつてのタカヒロさんの存在が段々重なってきました。これから箒星さんの手によって、つよきすレベルの傑作が生まれる可能性もあながちゼロではない……と予感させるほど。それだけに次の新作には期待大です。

とりあえず、そろそろ「バトル」からは離れて欲しいですね。シリアスなバトルシーンとは無縁の題材……そう、あかざさん原画でそろそろフツーの学園モノを!

Tech Arts自慢のアニメーションもクォリティアップ。アニメ導入がより自然となったおかげで、添え物感が軽減されました。βバージョンだったのがようやく正式リリースを迎えたって感じ。後は画質を向上させていけば、今後欠かせない武器になっていくものであろうと思われます。

朝比奈みくるに当たる桃本みつなはメイン格のヒロインではなく、サブヒロイン。エッチシーンとエンディングは一応ありますが、メインの人と比べれば非常に簡素なものです。みくる派の人には残念かも。

ちなみに主人公ジュンも名前こそ似ているものの、キョンとは性格が正反対。理屈っぽいキョンに対し、彼は親しみやすいおバカさんで、行動力もあり自己主張も愛の告白もちゃんと出来る主人公。私としては非常に好感の持てるタイプでした。

七瀬ヒカリは大好きですが、それ以上に黛玲於奈。キャリア組としての凛とした気構えと、その中にある愛らしさに惚れ惚れ。黒髪ポニーテールのおねーさん系と見た目も完璧で、何より彼女は「時たまメガネ」の体現者ですから! 私の1年越しの想いが遂に実を結び始めつつある…!

ちなみに、オフィシャルの人気投票で黛玲於奈に一票を投じた人の中に、“眼鏡キャラが素顔を晒すシチュよりも眼鏡なしキャラが一時的に眼鏡かけるシチュの方が好き”素晴らしいコメントを添えていた人がいました。その人はきっと、気品高く才知に満ち溢れた御仁なのでしょう。一度お会いしてみたいものです。

あ、ちなみに自作自演ではないので、悪しからず…。

ヒカリは、個別ルートのシナリオそのものがつまらなかったことに加え、恋人になったことで、彼女本来の魅力が消え失せてしまったことが残念でした。艦長の帽子を脱ぐと、一気に普通の娘に成り下がるのです。これなら恋仲になんかならず、最後まで「署長」のままでいて欲しかった。

「傍若無人で非常識な彼女が、恋をすれば普通の女の娘になる」 このギャップに萌えるという意見は一理ありますし、その気持ちがわからなくもないですが、荒唐無稽さこそが七瀬ヒカリの最大の魅力であると考える私にとって、「普通の娘に成り下がる」というのは、まさに致命傷と言うべき瑕疵なんですよね…。

皆さんだって、ランスが普通の男に成り下がるところは見たくないものでしょう。垣間にチョットした優しさや、人間臭さを覗かせるのはプラスでも、それで彼本来の横暴さや破天荒さが消えてしまえば台無し。ヒカリも最後まで破天荒なヒロインであり続ければ、ランスと同じぐらい好きになれたのにな。鬼畜王ヒカリとなって再登場を希望。
2007年4月24日・2007年4月27日追記