発売日 2011年12月8日
メーカー elf 
こら! 寝取られゲーばかりしてたら夜1人でおしっこ行けなくなるよ!
土天冥海さんといい、おるごぅるさんといい、どうして寝取られを好むライターさんはこんなにも情緒纏綿な人物描写を得意とし、感情に訴えかける素晴らしい恋愛劇を描けるのか。おかげで、寝取られ大嫌いな私がまたもや斯様な寝取られゲーに手を出す羽目になってしまいましたよ。「優しい男が好き」とのたまいながらDV男に惚れるダメ女のごとく…。

当初私は、ガテン系ヒロインという部分でも引っかかりを感じていました。しかし、ガテン系という属性は海藤美咲のほんの一面に過ぎず、危惧していた「がさつで下品な女」という先入観とは懸け離れたもの。言葉遣いを含め男勝りな一面はありますが、内外に女性らしさはちゃんと備えていて、溌剌とした健康的な魅力は万人を虜にさせる。何気ない気配りや細やかなフォローを欠かさぬ優しさもあり、実に気立てのいい女性です。美咲というヒロインに心奪われるまで、多くの時間は要しません

彼女との出逢いは、まかり間違って土木工事のアルバイトを始めてしまったのがきっかけ。主人公田中マサシ(通称マー君)は名前からすると188cmの長身から縦に落ちる高速スライダーを投げそうなイメージですけれど、実際は真逆の軟弱ボーイ。力仕事のアルバイトなんて今すぐ辞めたいと思いつつも、気が弱くてなかなか言い出せず、なんとなく続けてしまうような奴です。

でも、与えられた仕事を途中で投げ出したりはせず、必死に頑張ってこなそうとする気概はある。ひょろひょろのくせに音を上げず一生懸命働く姿に、美咲は心惹かれていくわけですね。

最初のうちはフツーに良質な純愛ゲーだったといえます。仕事を頑張って、次第に彼女とも仲良くなって、主人公自身も成長していく。このまま末永く2人のラブラブ恋人生活で話が終わってくれても、私は一向に構わなかった…!

しかし、これは厳然たる寝取られゲーであり、そんな甘い現実逃避は許されません。私は最初から猜疑心の塊となり、人の良さそうな現場監督だろうが気のいい職場の同僚だろうが、登場する男キャラは全員敵だと決めつけていました。挙げ句には、モブキャラのおでん屋の大将でさえも、「お前も本当は美咲の身体を狙っているんだろ!!」と疑ってかかるほど、深い疑心暗鬼を生じていた始末。

恐ろしいのは、そんな極度の人間不信に陥っていた私よりも、それら疑念が的外れでなかったという現実。マジで全員敵だったんですよっ!! どいつもこいつも影で美咲の肢体を狙って舌なめずりしている畜生どもばかり!! まったく、油断しなくてよかったです!

……とはいっても、それで寝取られが防げたわけではなく、どんなに気を引き締めていたところで結局寝取られることに変わりなし。くそおおぉぉぉぉ~~~!!

さて、このエロゲの本番はここから。通常、寝取られモノというのは「寝取られてしまったらそこで縁が切れてお終い」という感覚があるのですが、この作品では妻(美咲)が姦淫に及んでも心は常に夫(マー君)に向けられているため、寝取られる=敗残者では簡単に終わらない。他の男に抱かれた妻を夫は変わらず愛し続けられるのか? 他の男に身を捧げた妻は心だけは渡すことなく夫を愛し続けられるのか? そう、性質としては極めて純度の濃いラブストーリーなのです。

話を一層ややこしくさせるのは、主人公自身がいつしか「寝取られ」という歪んだ性癖に目醒めてしまうこと。愛する妻が他の男に汚されることに純粋な怒りを感じていたはずが、度重なる心労のせいで情緒が不安定になり……というより単純に寝取られの快感に目醒めてそれ自体を望むようになってしまう。

こうなってからの主人公と美咲の関係は実に切ない。夫以外の男に抱かれることをあれだけ嫌がっていた美咲が、夫を性癖を満たすために夫以外の男に抱かれることを選ぶなんて…。それは自らの負い目なのか、それとも夫への愛なのか。寝取られ道とは修羅の道ですよ、まったく。

正直、私にはキャラクターの思考に理解できない部分がたくさんあって、それぞれの行動原理を読み解くのがすごく難しいんです。寝取られ自体、不幸であることが幸せという壮大な矛盾なので、もはや私には何が間違いで何が正しいのかわかりませんし、一概に誰が悪くて誰が可哀想なのかも決められない。最後の終わり方(ED2)は、果たしてハッピーエンドなのかバッドエンドなのか? それすらも判断に迷う。

恐らく、このエロゲで問われてくるのは人生経験なんじゃないでしょうか? ある程度リアルに経験値を積んでいる人間じゃないと、この複雑な男女の心情を汲み取るのは難しいのではないかと。

残念ながら、この作品を真に理解する意味では私の浅い人生経験じゃ足りませんでした。結果、この怒りと悲しみの捌け口が見つからず、靄のような鬱屈した感情だけが残り、何とも言えない気持ちでぽつんと取り残されてしまったというわけ…。奥さん寝取られた! 超悲しい! バッドエンド!! みたいな単純な作品なら、私でも気持ちの持って行きようはあったんですけどねぇ。

それでも、これほど質の高いドラマを構築し、寝取られの奥深さと業の深さを痛感させてくれたこのエロゲは紛れもない名作。あまり認めたくないですが、「寝取られ」というのは純愛ゲームを彩る上で非常に有用な装置となりますよ。男たちが角逐しながら必死になってヒロインを奪い合う様に、その都度顔が紅潮して感情移入させてくれる。そんなエロゲは他に幾つもありません。

私にとって、「寝取られ」とは幽霊みたいなものかもしれませんね。直接係わりあいたくないし目撃するのも嫌ですが、怪談話は興味津々で聞いてしまうような。劇中の登場人物、塩原の「こっちの世界へようこそ」というセリフはまさに霊界からの囁き。



うちの妹のばあいの寝取られシーンが怖くて見られなかったヘタレな私に、寝取られシーンのエロさなど計れるはずもございません。ただ、これだけ私の心が沈んでしまうってことは、寝取られマニア的には歓喜のエッチシーンに満ち溢れていたのでしょう。

そんな私でも、実は一部“反応”してしまったところがありましてね…。それは主人公が就寝しているすぐ横で、間男がビデオカメラを回し、美咲がこれまでやってきた行為を1つずつ吐露していくシーン。主人公自らが美咲に詰問し、間男とどのような淫行に及んだのか、自分と比べて何が良かったのかを白状させるシーン。

これ以上はネタバレになるので控えますが、美咲の口から自らの不貞を告白させるシーンが結構あったんですよ。私は彼女が直接他の男に犯されているシーンは目を覆っていましたが、その行いを彼女自身が告白するシーンは、逆に食い入るように聞き入っていました。

これは一体全体どういうことなのでしょうか? 美咲の赤裸々な不貞行為の数々を聞かされ、沸き上がる怒りと悲しみと同時にドキドキするような興奮が微かに混じっていたような気がする…。

ま、まさか!? い、いや、そんなバカな…。この私が寝取られに目醒めるなど……だ、だ、断じてありえん! これは何かの間違いだッ……!! そうに決まっているッッ!!

海藤美咲は年齢と主人公との関係性によって様々な姿を見せます。上司としての美咲・恋人としての美咲・妻としての美咲、それぞれに違った魅力があるんですよね。それに合わせて、服装や髪形が多種多様に用意されていたのもポイント高い。

美咲が魅力的に映るのは、不本意ながら憎き間男どものおかげでもあります。多くのエロゲヒロインは、どんなに見た目可愛くても主人公以外の男がまず寄り付かない。所詮、他の男からまったく相手にされていない余り物の女なんですよね。

その点、美咲は多くの男性から懸想され、手段はどうあれ彼女を落とそうと皆が躍起になっている。数多の男を惑わす彼女がどれだけ女性として魅力的であるか、相対的な観点で理解できるんですよ。寝取られ作品においてヒロインがより魅力的に感じるのは、そういう理由もあるんだと思います。

媚肉の香りの叶沙耶・進藤由紀、人間デブリの園部空、そして今回の海藤美咲。土天冥海さんは本当に「いい女」を生み出しますよね。

対象を持ち上げるために他者を貶めるのはマナー違反ですが、土天冥海さんのヒロインと比べると他のエロゲヒロインが記号にしか見えなくなる。それぐらい深みが違う。愛情の質が違う。土天冥海さんがその気になれば、絶対純愛作品でも名作が作れるだろうなぁ。その気になってくれなさそうだけど…。

ちなみに、この作品はアゴストさんという方にメールでオススメしていただいたもので、自分から発売日に購入したものではありません。寝取られ、ガテン系、ダウンロード専売であるのがネックで、elf作品といえどずっと敬遠していたのです。でも、それは愚かなことでした。もう寝取られを怖がるのはやめよう。見た目に惑わされるのはやめよう。信じるべきは土天冥海という名前のみ
2012年11月2日