サカサマのパテマ 映画評(ネタバレ控えめ)

空から美少女が降ってくる安いボーイ・ミーツ・ガールには辟易としていますが、地面から美少女が降ってくるという逆転の発想(?)は面白い。普通の人間とは真逆のベクトルの重力に引っ張られている地底人パテマを中心とした摩訶不思議なファンタジー。我慢できないので先に結論言っちゃいますが、超傑作でしたよっ!!

「反重力の少女」という出オチ臭いギミックがストーリーの面白さにどう絡んでいくのかが見どころでしたけど、「サカサマのパテマ」は見事にこの設定を使いこなしていましたね。具体的にいえば、この反重力設定は3つの面で大きな効力を発揮していたんです。

1,アクション要素

空中に向かって引き寄せられるパテマを支えるエイジは、いわば大きな風船を掴んでいるようなものなので、その浮力によって大ジャンプが可能。2人が身体を支え合いながら、上空を大きく飛び跳ねるシーンは大変爽快で見応えありました! ゲームにも重力を操って戦う「GRAVITY DAZE」という作品があるように、反重力という設定がアクションシーンで重用されたのは間違いありません(もう少したくさんあると良かったけど)。

あと、囚われのパテマを救うため、パテマと同じ反重力の住人であるポルタと共に敵の本拠に侵入する展開がありまして、ここでも異なる2人の重力を有効に駆使しながらタワー最上階を目指していく行程がゲーム感覚で面白かったですね。

お互いパテマに気のある男同士、つまり恋敵同士がパテマ救出の目的のために協力するというのは萌えた(笑)

2,恋愛要素

最初は上下逆さまの相手なんかさすがに恋愛感情芽は生えないだろうと思っていたんですよ。ところがこれ、男女が惹かれ合うにはもってこいの設定だったんですねぇ!

パテマはひとたび足場(天井)のない野外へと踏み出せばたちまち空に落っこちてしまうんで、エイジはパテマの手をしっかりと握り締めなきゃならない(体重はエイジの方が重いため地面側に引き寄せられる)。そう、2人は初対面から常に肉体的接触があるわけですよ。次第に手だけでなく、身体をしっかり抱き締めるようになりますし、ただ一緒に行動するだけで自然と親密度が上がっていくという寸法。

パテマは自分の身を完全に彼に委ねているような状態ですし、意識しないわけがないんですよね~。「決してお前を離さない!」という女子垂涎のシチュエーションを地でやっているエイジ君にキュンキュン来るのもしょーがない! 必死に身体を抱き留めつつ、敵の追手から逃れようとしている瞬間なんて、パテマからすればお姫様だっこされながらナイトに守られている気分だったはず!(笑)

実際エイジ君は文句なしにカッコイイ主人公でしたしね。少女のために少年が頑張る。そんなシンプルな動機が素敵です。

3,教育的要素

私がこの映画で最も感心したのはここ!

多くの人間は自分の視点こそが正常だと思い込み、自分の持つ常識こそが普遍的な常識だと捉えています。ゆえに、自分の視点や常識に相反する他者を批難することが多いのですが、「サカサマのパテマ」は、相手の立場で物事を考えることの大切さを教えてくれるのです。

地上に住むエイジと地下に住むパテマもまったく異なる立場の人間。何せ、2人は物理的に立場が違いますから。同じ事象に位置していても、2人が見える世界はまったくの別物であって、エイジにとって美しい満天の星空は、パテマにとっては足が竦むような奈落の底に過ぎない。

「想像できるか? パテマが見ている世界を」

劇中でエイジが発したこの名言の中に、「サカサマのパテマ」の本質が見て取れますよ。天と地、虚と実、自身の一方的な視点だけでは決して何も見えてこないのだと。相手の立場で物事を考えられない人間ほど、サカサマに立つ人間を見てサカサマ人間と呼ぶ。本当はどっちがサカサマなのかわかりゃしないのに…。

現実世界に生きる私たちにとっても、それは同じことじゃないでしょうか。相容れない文化や国民性を持つ異国の人間であろうと、相手の立場になって考えれば見えてくるものもある。自分本位な視点や常識しか持てない間は、他者と解り合える日はやって来ないってことですね。

そういった作者のありがたい言葉が、劇中では一切流れないところが素晴らしい!(笑) この教訓はあくまで私が勝手にそう感じ取ったというだけ。ジブリみたいにエンターテインメントを犠牲にしてまで説教臭いメッセージを押し付けられると萎えますけど、この「サカサマのパテマ」はエンターテインメントそのものでメッセージを語ってくれるから心地好いんです。

総括

紛うことなく神映画です! なんて言うんでしょう、上映中は常に高揚感に包まれていたというか、ある瞬間に鳥肌がぶわっと立つというよりは、鳥肌が薄~く立ちっぱなしだった感じ。ずっとふわふわ浮ついている気分で、最後は真っ逆さまに落ちていくカタルシスもありました(良いオチが付いたね!)。

残念ながら作品の認知度は高くなく、スクリーン数も少なめのマイナー気味な映画ですけど、これから少しずつ口コミで広がって人気を獲得していくと嬉しいな。私は日本アニメ映画史に残る傑作だと思っていますよ。もしこれが宮崎駿監督作品と銘打っていたなら、「さすが世界の宮崎駿!」と絶賛され、今頃劇場に行列ができていたはず! ラピュタが好きだった人なら絶対ハマるんじゃないでしょうか。

というか、キャラクターに関してはほぼラピュタですから(笑) パテマはシータでエイジはパズーで。君主イザムラは明らかにムスカ大佐。最後は2人が手を取り合って「パテマ!」と滅びの呪文を唱えるのかと思ったぐらい(笑) ラピュタに寄せているのは恐らく意図的で、オマージュなんでしょうね。

2013年11月12日

3 Responses so far.

  1. ユキ より:

    全然存在も知らなかったのですが、すっごい面白そう!ビンビン来ましたよ!
    ラピュタも大好きだし!

    サカサマに抱き合ってる2人の絵は若干シュールですけど(笑)、
    設定的にも世界観的にも凄く面白そうです。絵も好みだし。
    こういう一つのシンプルで優れた設定を膨らませてるタイプ(想像)の話は好きですね~。

    これは即観に行かなきゃ!と思ったんですけど、静岡でやってない・・・。ぐえー。
    うう~ん、でもこの世界観を満喫するためにも
    劇場で見たいタイプの映画なんだけどなあ。うう~ん。
    でも今県外まで観に行ってる余裕はさすがに無いので、
    泣く泣く断念・・・するしかないか・・・(泣)。

  2. 堕落人 より:

    おお、まさか浅生さんがこの映画を観に行かれているとは!

    私は劇場版まどかマギカを観に行った際、予告でこの映画の存在を知りました。
    綺麗な映像に可愛いキャラ、そして重力を駆使したアクションに目を奪われ、本編開始前からテンションが上がったのをおぼえています(笑。

    実は基本的に映画を観るときは誰かと一緒に行く事がほとんどなので、道連れが見つからないと観たくてもスルーしてしまう事が結構あるんです…出不精なもので;
    パテマもそうなりそうでしたが、浅生さんの感想を見て思い直しました。この映画は一人でも観に行くぞ!…と、自分に宣言しておきます(笑。

  3.  ユキさん
    ラピュタのような爽やかな冒険譚を求めるなら断然オススメ。本来ならカップルやお子さん連れの家族など、ライトな客層に見て欲しい作品ですよ。

    宮崎駿監督の引退を皮切りに、ネクスト宮崎駿候補が幾つか取り沙汰されていますが、吉浦康裕監督がその最右翼なのかもしれません。

    >サカサマに抱き合ってる2人の絵は若干シュール
    2人が抱き締め合う美しいシーンがあったんですけど、相手の下腹部に顔が当たるような立ち位置だったので、どうしても邪な想像が頭を過ぎってしまう…(笑) いやらしい見方しかできない自分に自己嫌悪。

    >即観に行かなきゃ!と思ったんですけど、静岡でやってない
    調べてみたら、全国で15箇所しか公開されていないのか…。想像以上にマイナーだった。これじゃあ、しょうがないですねぇ。

     堕落人さん
    「空に落ちていく」反重力の設定が面白そうと思えばもう大丈夫。あとは期待を裏切らない出来になっていますよ~。

    設定に凝っている作品は詰め込みすぎて、回収できないまま有耶無耶にされがちですけど、この映画はちゃんと綺麗に風呂敷に包めているので好印象。びっくりするような結末が待っているわけじゃないですが、終わったあとの爽快感はかなり高めです。

    >道連れが見つからないと観たくてもスルーしてしまう
    それだったら、今度の日曜日にでも一緒に観に行きましょう! …と近所に住んでいたならそう言いたいんですがねぇ(笑) 都内なら上映している映画館には困らないはずなので、是非機会を見つけてご覧になってくださいな。