風立ちぬ 映画評

「風立ちぬ」はジブリ最高傑作

といっても、私は別にジブリ作品をそんなに観ているわけではないんですけど。観たのはハウル以来久々で、最近のゲド・ポニョ・アリエッティ・コクリコは全部スルー。かといって過去作に思い入れがあるわけでもなく、大ヒットした「もののけ姫」や「千と千尋」の面白さはサッパリ理解できず、みんなの大好きな「ラピュタ」ですら心は動かなかった模様。「ナウシカ」に至っては、未だ一度も観たことがないという非国民でございます。

そんな私が好きな数少ないジブリ作品はというと、「耳をすませば」と「紅の豚」。つまり、トトロとかポニョとか得体の知れぬ怪物が出てくるファンタジー系は好まず、現実的なドラマ性の高い(ついでにラブ要素も)作品が好きなわけですね。そういう意味では、史実をなぞって作られた「風立ちぬ」は、近年子供向け作品ばかりに傾倒していたジブリにおいて、久々にドラマ仕立ての大人向け作品として期待感が高かったのです。

主人公堀越二郎は、若き日からいつか自らの手で美しい飛行機を作り上げることを夢見ていた。勉学に励み、東京の大学で航空工学を学んだあとは、名古屋の三菱内燃機製造に就職。航空技術者となって飛行機の設計に没頭すると、めきめき頭角を現して行く。

少年期から青年期に至るまでの二郎の成長と立身出世を丁寧に描写することで、ひたむきに追い続ける夢に一歩一歩近付いていくその高揚感を、観客側も一体となって体感することができるんです。関東大震災の余波で貧困に喘ぎ、技術も立ち後れている後進国日本において、激動の時代を懸命に生き抜く一人の青年の息吹にきっと感銘を受けるはず。

もう1つの見どころは“純愛”ですよ。かつて関東大震災の折に手助けした縁がある里見菜穂子と軽井沢の地で再会すると、たちまち恋に落ちる2人。

ホテルで会食している最中、ドイツ人カストルプに恋をしていることを指摘されても、照れて言い淀むことなく「はい」と認めてしまう二郎。更に同席していた菜穂子の父親に「もしかして私の娘か?」と問い詰められても、再び「はい」と真正面から即答したシーンで、思わず私は「おおっ!」と心の中で快哉を叫んでいました。

菜穂子が結核を患っている重大事を打ち明けられても一切動じることはなく、病気が治るまで100年でも待つよと答え、喀血して倒れたと聞き及べば、すぐさま列車に飛び乗り名古屋から東京まで駆けつけ、家の庭から侵入して菜穂子を抱き締めキスをする伊達男っぷり。内気な朴念仁に見えて、実はかなりの王子様キャラなんですね~。

サナトリウムから抜けだし、二郎が寄宿する黒川宅へ1人やってきた菜穂子と一緒に暮らすため、今この場で結婚すると即断即決した二郎はホント男前すぎました。

急拵えで始まった結婚式。先が長くないことを知りながら、それでも夫婦になることを選んだ2人の決意に感極まる私。束の間の蜜月を大事に過ごそうとする2人は切なくも美しい。病床の妻の手をしっかり握りしめながら、夜遅くまで“片手で”仕事を続けた二郎に、私は耐えきれずぽろぽろ涙を零すばかり

最後は何ともいえぬ余韻を残して了。貧しいながらも活気に溢れていた時代、技術立国日本の礎となった男たち。ヴィジュアルとストーリーの両面で、古き良き日本の「美しさ」がふんだんに詰まっていた素晴らしい作品でしたよ。

私がジブリ作品を敬遠していた理由の1つに、押し付けがましい説教が苦手というのもありました。娯楽映画にサブリミナルの如く作者のイデオロギーを混ぜ込む手法が嫌いで(堂々と押し付けてくるならOK)、ジブリ映画を素直に楽しめなかったんですよね。メッセージ性の強い作品を面白いと評価すると、なんかその作者のメッセージを肯定したような気分になりますし…。

取り分け今回は零戦設計者のお話ですので、宮崎駿さんの反戦思想が色濃く表れた映画になるんじゃないかとの危惧もありましたが(ネットではそういう評判でしたし)、蓋を開けてみると政治色はほとんどないに等しく、変に深読みさえしなければ、シンプルな娯楽エンターテインメント映画として楽しめるものでした。堀越二郎の半生を良い意味で淡々と描いた物語であり、そこに余計なメッセージを付け加えなかったことが私には心地好かった。

夢に向かって情熱を燃やすロマンは男性が共感を憶える部分でしょうし、白馬の王子様を地で行く二郎の純愛は女性が楽しめるであろう部分。男女ともに見どころがありますので、カップルで観る映画としては最適ですよ。一方で、小さなお子様は退屈かもしれませんけど。周りは家族連れの観客も多かったですが、途中で子供は完全に飽きていましたんで(笑) ポニョみたいなのが出てこなくてゴメンね。

※オマケ※ 主人公堀越二郎役を務めた庵野秀明さんの演技

この映画である意味最も焦点となっていた庵野秀明さんの声優演技についても言及しておかねばなりませんね! 普段から木訥とした庵野さんに声優をやらせるなんて、どんな無茶振りだよと思っていたものです。偏屈な髭面のオヤジ役ならともかく、堀越二郎のような爽やかな青年役を抜擢するなんてイジメでしかないと(笑)

最初は当然違和感しかなかったですし、演技も紛うことなく棒読みでしたが、不思議と不快感には繋がらなくて。庵野さんの声は、二郎の持つ素朴さ・几帳面さ・裏に抱える苦悩を帯びていたので、確かにミスキャストではないんですよ。1時間も経てば(1時間かかったんかい)すっかり声は馴染んできましたね。これはこれで全然ありだと感じました。

ジブリ(宮崎監督)が声優にプロではなく素人を好んで起用することについては、以前まで私も真っ向から反対していたんですけど、最近になってその気持ちが少しわかりかけてきました。

アニメ中心に活躍している人気声優さんたちは、やっぱり視聴者に媚びた喋り方が身に染みついている。「自然な演技」ではなく「いい声」を出すことに腐心している声優さんも多いため、やっぱりそういう人たちはジブリのアニメにそぐわないんだと思います。それでも完全な素人よりは、舞台やっている俳優さん&女優さんを起用して欲しいのが本音ですけどね…。ヒロインのソニー損保の人は抜群の演技していましたから。

2013年7月22日

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